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女神の日々  作者: 漓雨
3/6

-2・親不孝にもほどがあります-

 ばあや…?


 無理です。どうしてどこをどう多く見積もっても30代前半の妖艶な雰囲気を醸し出しながらも癒し系な美女のことを『ばあや』だなんて呼べるのでしょう。精々『おねえさま』呼びが限界だと思います。ここはひとつ、名前呼びで…


「あの、羅刹女さん。私はーー」

「姫様、ばあやと呼んで下さいませ。わたくしは姫様をずーっとお待ち申し上げておりました。あの日、私が姫様のお側を離れたりしなければ、姫様は天落などされることもなかったでしょうに…!姫様のお力を感じるまで生きた心地がしませんでした。幼き身で天落したものが人間界で生き存える確率は10パーセントにも満たないのでございますよ。あぁ、本当に良かった……!!」


 ばあやと呼ばなかった私に、羅刹女さんは涙を流しながら訴えてきました。無理でもなんでも、ばあやと呼ばないと無限ループな気がします。

 しかし、天落ってそんなに危険なものだったんですね。…ということは私、昔一回死にかけてるってことですか。うわぁ、どうしよう。衝撃の事実が多すぎてむしろ冷静な気がします。

 というか、さっきからごく自然に天落って言ってますが、微妙にニュアンスが違う気がしますね。…まぁ、そんなに意味に違いはなさそうな感じなので尋ねるのはいいでしょうか。とりあえず聞いておかなきゃいけないのは――


「あの、ば、ばあや?とにかく私はどうして天界にいるんでしょう?先程からの話から考えると、17年前人間界に落ちた私は、どうしてそうなってるのかは分かりませんが、咲川吉乃という人間として生まれ落ちて自覚症状もないまま暮らしていたということになると思うのですが」


 寝耳に水もいいところな事実でしたからね。自覚症状なんか微塵もありませんし、未だに信じ切れてもいないのです。そう聞いた私に、羅刹女さんは嬉しげに頷きながら答えてくれました。赤く腫らした目尻が一層艶めいて見えます。


「その通りでございますわ、姫様。さすが、賢くていらっしゃってばあやは嬉しいです。…天落とは、天界で言うところの乳児期、つまりは100歳程度までの肉体も魂体(こんたい)…神としての力のようなものですが、どちらも不安定な期間に誤って下界(人間界)に落ちてしまうことを言うのです。本来、下界に自らの意志で降りるのは肉体と魂体が定着した幼児期以降に許されるものなのですが、不安定な肉体のまま下界に降りることは相当な負荷がかかると聞いております。その為、魂体が自らを守ろうと人間の胎内に宿り、人間としての身体で生まれてくる、と伝えられております。何分、天落して無事だった方は殆どいないため、情報がなかなか無く、姫様の安否が確認できるまでは本当に生きた心地がしませんでしたが」


 ……とにかく、私は天界で育っていた赤ちゃんの頃に何が原因かは分かりませんが人間界に落ちて、何とか生きていて、自分が生き延びるためにお母さんの胎内に潜り込んで娘として生まれ、今まですくすく成長してきたと、そういうことなんでしょうか。なんだか複雑な気持ちで胸が苦しいです。…なんだか、家族を利用してしまったようで……。


「人間界での肉体についてですが、ちょっと複雑なので重要なところだけお伝えしますが、魂体は封印されて人間の心臓の役割を果たすことになるようなのです。……そして、今回のことは落下の衝撃が激しく、魂体が身体から離れてしまったために…」


 でも、血が繋がってないわけじゃないですものね。一番近いのは、転生みたいなものなんでしょうか……。ちょっと違う気がしますが。大切で大好きな家族には変わりありません。とりあえず、帰ったら感謝の気持ちを精一杯込めてなにか御馳走を作ろうと思います。




「姫様の、人間界でのお身体がお亡くなりになってしまわれたので、慌てて魂体を保護して天界まで連れて帰ってきてくださったのです」




 え?

 亡くなった、って……

 私、死んじゃったってことですか―――!?




 この時の私は、今まで知らされたものよりもっと衝撃的で残酷な事実を前に、羅刹女さんの不自然な言い回しに全く気付かなかったのです。

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