-1・いったい何の冗談ですか?-
あ…、今、何時でしょうか。
早く起きなきゃ、学校に遅れてしまいます…。
あれ、でもいつものアラームが鳴ってない。
何で……?
目が覚めました。いつもの様に身体を起こして伸びをしようとしたけど、全身に酷い痛みが走って急に身体を起こすことが出来ません。
何でこんなに身体が痛いんでしょう? というか、よくよく辺りを見回してみるとここは私の部屋じゃないみたいです。ここどこでしょう?未だかつて実物を見たことの無かった天蓋付きベッドに私は寝てるみたいですし。
えーと、何があったんでしたかね。お昼に香奈子と理沙とご飯を食べて… あ、掃除中に風が吹いて階段から足を踏み外して… それから?
私が事態の把握ができていないでいると、カチャリとドアの開く音がしました。どうやら誰かやってきたようです。
「お目覚めになりましたか、姫様」
天蓋付ベッドにも驚きましたが、今度は凄い美女が私の顔を覗き込んできました。誰でしょう?すごく優しそうな人・・・ ちょっとお姉ちゃんに似てる気がします。
って、ん?姫様?
「あの、姫様って・・・ ? はっ!あ、あのっ、ここは一体何処でしょうか?私はどうしてここに?」
姫様という言葉は気になったものの、とりあえず現状を把握することが先決なので、目の前の美女に聞いてみることにしました。
「落ち着いてくださいませ」
私があまりにも息せき切って尋ねた所為でしょう、彼女は少し仰け反ってしまっています。
そして、苦笑しつつ私を宥めるようにそう言い、そして、俄には信じがたい現状の説明を始めました。
「この場所は『天界』でございます。姫様が今までお暮らしになってらした人間界から見れば神々の住む世界ということにでもなりましょう。
姫様は、真のお名前を『吉祥天』様と仰います。幸福と豊穣を司る神にございます。
天界時間にして17年前に姫様はこの天界より人間界へと誤って落ちてしまわれたのでございます。幸いにも、時の流れが安定した箇所だったらしく人間界の時の流れも同じ早さだと伺っております。…あぁ、本当に良うございました」
……天界?吉祥天?落ちた?
………って、えぇええ!?
あまりのことに、呆然としてしまいました。というか、全く現実味のない話だと思います。そもそも天界なんてものが存在するわけ無いと私は思っていましたし、ましてや、自分が吉祥天とか…。
「ちょっと待って下さい。それって本当の話なんですか?ファンタジーとか、私をからかおうとしてるんじゃなく?」
目の前の美女が冗談を言うような人には見えませんでしたが(だって目が真剣ですし。すごく。)、思わずそう言ってしまっていました。だって仕方ないでしょう?ありえないじゃないですか……!
「もちろん、すべて真にございます。…姫様がお忘れになってしまっているのも無理はございません。姫様が天落された際、まだ100歳になられたばかりで幼くておられましたし、人間界にいる間は、天界に関する諸々は封じられてしまっていると聞いたことがございます。あぁ、それにしてもご立派になられて……!ご無事で本当に良かった……!!」
とりあえず、冗談ではないらしいです。でもどうしましょう。なんて言うか話に突っ込みどころが多すぎるような。…でも、神様って根本的に人間と違いそうですし、年齢に突っ込んじゃダメなんでしょうね。でもそうしたら私って117歳ってことですか?どうやら天界と人間界では時の流れが同じじゃないこともあるみたいですが、もし荒れてる流れの場所に突っ込んでたらどうなっちゃってたんでしょう。ちょっと怖いです。
……や、それよりも、ここが天界だっていうのは把握しましたけど、私なんでここにいるんでしょう?人間界に関してはどうなっちゃってるの?
「ここが天界で、私が吉祥天だというのは何となく把握したんですが、どうして私はここにいるんでしょう?あの…」
あ、名前聞いてない何て呼べば。なんて思っていると美女は言ったのです。
「わたくしは羅刹女。姫様の乳母にございます。どうぞ『ばあや』とお呼び下さいませ」




