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女神の日々  作者: 漓雨
1/6

-序・日常の終わり-

元は更新停滞中の自サイトに載せている作品ですが、年単位で更新できなかったため、色々考えた結果、既出部分は加筆修正の元、公開し直すことにしました。

天界での導入編以降は連載というよりシリーズ短編みたいな進みで行きたいと考えています。

遅筆のためお待たせすることが多くなるかと思いますが、気長にお待ちくださると幸いです。

 平凡な顔、取り立てて目立った所は特に無いごく普通の高校生。

 それが私です。

 勉強はそれなりに出来ますが、スポーツに関しては自分の運動神経を恨みたくなるくらい。

 

 普通に学校に行って、授業を受けて、友達とお喋りして。

 家に帰って、お姉ちゃんと料理をしたり、お父さんとお母さんが楽しそうに話しているのを呆れて見たり。

 そんな普通の毎日をずっと送ってきました。

 これからもずっとそうだと思っていました。

 

 

 女神の日々-序-

 

 

 直ぐ近くのような、ちょっと遠いような。

 どこかでけたたましい音が鳴っているのが分かります。ああ、この音は目覚まし代わりに設定している携帯電話のアラーム音か、とはっきりしない頭で認識しました。

 朝です。

 今日は金曜日。今日まで頑張ったら明日は休みだから、明日はゆっくり寝られるなんて思ってベッドから出ます。

 毎朝無意識に繰り返している一連の動作をこなしながら、私は今朝方見た夢について考えてました。

 

 私にはたまに見る夢があります。

 起きた時にはきちんとした内容は覚えていないけれど、いつも同じ場所がその夢の舞台らしい事だけはなんとなく覚えているような。

 ――――懐かしい夢。

 その夢を見たあとは何故かいつもそう感じるのです。どうしてそう感じるのかは全く分からないけれど、小さい頃からずっと見ている夢。いい加減、ちゃんとした内容を覚えていてもいいようなものですが、生憎一度もきちんと覚えていたことが無いのです。

 一体何なのでしょう。

 

 顔を洗って気持ちを切り替え、最低限の顔の手入れ。

 校則で化粧は禁止されているけど、そんなの守っている子なんか殆どいません。

 皆程度に差はあれど、若干の化粧をしているのは教師の間でも暗黙の了解のようです。

 制服に着替え、荷物を持って下へ降ります。

「おはようございます」

 リビングには朝食の支度をしている母と、コーヒーを片手に食パンを齧っている姉が居ました。

「おはよう、吉乃(きつの)

「もう直ぐご飯出来るからね」

 姉はどうにも急いでいるらしく、食パンの他にはサラダしか採らないつもりらしいです。

「どうしたんですかお姉ちゃん、そんなに急いで。出社の時間まではかなり時間があるでしょう?」

 姉の咲川由梨(さきかわゆり)は出版社で働いています。小説を読むのがもともと好きな人だったので、小説部門の配属になった時はかなり喜んでいたのを覚えています。美人で頭も良い、自慢の姉なのです。

「実は担当の先生がちょっと沖縄に逃げちゃって。捕まえに行ってこないといけないのよ。締め切りは明後日だし、時間が無いから」

 そう言いながらも食べる手は休めません。喋りながら・・・と言うより、2つ以上のことを一度にこなすということが出来ない私としては、尊敬するばかりです。

「大変そうですね…。頑張ってくださいね。でも無理しちゃだめですよ!」

 母が作ってくれた朝ご飯を食べる手を止めてそう言うと、姉は感極まったように抱きついてきました。

「ありがとう!もう、吉乃ったら本当になんて良い子なの!お姉ちゃん頑張るから!」

 姉は自他共に認めるシスコンというものらしく私のことをとても可愛がってくれています。私もそんな姉が大好きですが。

「私はもう行くけど、電車に乗るときは痴漢に会わないように気をつけるのよ。・・・じゃあ母さん、行って来ます!」

「いってらっしゃい。気をつけるのよ」

「いってらっしゃいお姉ちゃん」

 

 慌しく姉が出て行った後、ご飯を食べながら母に気になっていたことを聞いてみました。

「お母さん、お父さんは?」

 現在午前7時。いつもならば父も一緒に朝食を採っている時間なのですが、今日はまだ起きて来ていないのです。

「お父さんは今日はお休みなんですって。先週はお休みなしだったから今日からまとめて3連休だって言ってたわよ」

「そうなんですか。具合が悪いとかじゃなくて良かったです」

 いつも朝の早い父が起きてこなかったので、風邪でも引いてしまったのかとちょっと心配していたので安心しました。

「ごちそうさまでした」

「はい、おそまつさま」

 いつもと変わりない朝。今日もきっとこのままいつもと同じように一日が過ぎるのだろうと思いつつ、家を出ます。

「行ってきます、お母さん」

「行ってらっしゃい。今日も一日頑張ってね」

 笑顔で見送る母に、私も笑顔を返して学校へ向かいました。

 

 

 

 午前中の授業終了のチャイムが鳴りました。

 友達と話をしながらお弁当を食べているとき、ふと窓の外に目を向けると、中庭の結構奥まった場所に一組の男女が向かい合っているのが見えました。

 ―――いわゆる告白現場というものですね。

 男の方には見覚えがあります。・・・というよりも、この学校で彼の存在を知らない人なんて殆ど居ないのではないでしょうか。

 私たちよりも一学年上の3年生で、生徒会の副会長。顔良し、頭良し、運動神経良し、先生生徒問わず信頼も厚いと評判の、須山沙門(すやまさもん)さん。

 そんな"神は二物を与えず"を平気で裏切っているような存在の彼が、女子に人気なのも無理は無いことだと思います。

 ……まぁ、私には関係の無いことですが。

 そんな私の視線に気付いたのか、友人たちも窓の外に眼を向けたようでした。

「副会長じゃない。相変わらず女の子にモテモテだよねぇ。あの告白してる子、一年生の中でも可愛いって注目されてる子だよ」

「ホントだー。でも、噂だと副会長って特定の彼女つくったこと無いらしいよね。専ら年上のお姉さんと遊んでるとか何とか」

 副会長って実は割と遊んでるんですね。知りませんでした。てっきり品行方正を素でいってるものだと思っていましたし。人って見かけによらないんですね。

「へー、そうなんですか」

 友人たちの話に感心していると、

「そう言えば吉乃も彼氏居ないよね。作らないの?」

 と、話を振られました。

 彼氏、ですかぁ。今までそんなの作るのってそう言えば考えたこともありませんでした。…私だって一応青春真っ只中の筈なのに。

「……考えてみたら、私、恋したこと無いかもしれないです」

 どうやら考えていたことがそのまま口を尽いて出てしまったらしいです。

 友人二人は信じられないものでも見るかのように私を見たまま固まっています。そんなにおかしいのでしょうか。17にもなって初恋もまだだなんて。

 ふとその時、中庭で一年生の女の子からの告白を丁重に断ったらしき副会長と目が合った気がしました。

 ―――本当に…?―――

「?」

 どこからか声が聞こえた気がしましたが、周りを見てみてもそんな様子は無く。首を傾げていると、固まっていた友人たちから矢継ぎ早に問いかけられてしまいました。

「ちょっ、吉乃、それ本当の話!?」

「は、初恋もまだなの!?」

 友人たち――理紗と香奈子はタイプは違うけどかなり容姿が整っていると思います。理紗は綺麗系で香奈子は可愛い系。理紗には今彼氏は居ないみたいですが、香奈子は現在進行形で恋人が居るようです。二人ともそれなりに恋愛経験があるんですよね。

「はい」

 私が素直に頷くと、香奈子と理沙は顔を寄せ合って小声で何かを話し合いはじめてしまいました。

「吉乃って、もしかしたら自分が今まで告白されたことあっても気付いてない…とか?」

「有り得る。性格良くって綺麗だからそれなりにモテてるし、何度か告白されてるはずなんだけど…」

 私のところまでは内容が聞こえてきません。二人ともいったい何話してるんでしょう。

 入っていけなくてちょっと寂しいな、と思っていたら、二人が何だか意を決したように口を開きました。

「ねぇ、吉乃。男子に呼び出されたこと、あるよね?」

「その時何て言われた?」

 思い返してみれば、確かに何度かそんなことがあった気がします。確かみんな……

「付き合ってください、って言われました」

「で、吉乃は何て答えたの?」

 二人が何かを期待するような、若干不安そうな顔をして聞いてきます。

「…何処にですか?って」

 その瞬間二人とも机の上に突っ伏してしまいました。何か私は変なことでも言ってしまったのでしょうか。

 何とか立ち直った理紗が言いました。

「そうじゃないかと思ってたけど、あのね、吉乃。それはね、交際して欲しいって言う意味の付き合って欲しい、だと思うわよ…」

 その言葉に再び思い返してみれば、そう答えたときの男の子たちも皆ちょっと悲しそうというか切なそうというか、かなり複雑そうな顔をして笑って『何でもないんだ、気にしないで』と言っていたような気がします。

「あれって、告白だったんですか…?」

 それが本当だとすると、私は彼らに対して大変失礼な態度をとっていたという事になるのではないでしょうか…。

 勘違いを謝りたい気持ちになります。でも、今更謝りに行くのはそれこそ失礼と言うものでしょうし…

 

 

 

 ぐるぐると考えている間に昼休みが終わってしまいました。

 昼休みの後は掃除時間なので、担当場所に向かうことにします。

 私の担当は特別棟の三階から四階への階段と四階の外廊下です。本当は私の他にもう一人担当の子が居るんですが、今日は欠席してるので私一人での掃除になります。そう大変な場所でもないので困らないんですが。だって、箒で掃いて塵取るだけですしね。

 しかし、あれが告白というものだったなんて……

 先刻からの続きでやっぱりぐるぐる考えつつ階段の掃除に取り掛かったとき。

 

 突然強い風が吹きました。

 

 丁度後ろ向きに階段を下りる形で掃除していたのが災いしてしまったのでしょう。

 突風に煽られた身体は呆気なくバランスを崩し、浮き上がったと思った瞬間胸が空くような感覚に囚われました。

 

 落ち、てる?

 ……あれ、私前にもこんな事があったような…?

 

 瞬間、酷い衝撃を感じた気がしました。

 

 


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