episode.1 知らない世界
目が覚めたら、そこは知らない場所だった。
白い天井と、自分を囲む人たち。
「あれ・・・?」
「りゅうっ!!!」
いきなりの声にビクッとする。
「おい芽衣、琉が驚いてるじゃんか」
先生呼んでくる、と言って彼は去った。
「びっくりしたよ!!琉のお母さんに倒れたってきいて・・・」
そう言って目を潤ませる。
でも・・・
「・・・えっと、お前、誰?」
「・・・・え?」
彼女は、次第に笑顔を曇らせた。
「り、りゅう?何言って・・・るの?」
そしてオレはまた繰り返す。
「りゅうって、誰?」
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医師と見られる人がオレに聞く。
「これは何本に見えますか?」
「3本です」
「2+4は?」
「6です」
「・・・では、あなたの名前を教えてください」
「名前・・・」
あるべ名前を必死に探す。
しかし、思い出せなかった。
「わかりません・・・」
その言葉は・・・
残酷だった。
不思議とオレも悲しくなった。
「どうやら、記憶喪失のようです。家で倒れていたということは・・・神経系に問題があるのかもしれません。もしくは別のなにかか・・・。
どちらにしろ、検査してみないと原因はわかりません。どうしますか?」
「お願いします」
少し年が違いそうな女の人が答えた。
「わかりました。検査はだいたい2〜3日で終わります。意味記憶は大丈夫なようなので、どういう状況なのか、説明したほうがいいでしょう」
そういうと、その医師はカルテを持って出て行った。
その姿をなんとなく見ていると、今さっきオレに話しかけてきた女の子が寄ってきた。
「君は・・・城刃琉っていう名前なんだよ。あたしはあなたの幼なじみで、芽衣。若月芽衣」
よろしく、と手をだしてきて微笑む顔は、正直かわいいと思った。
「こ、こちらこそ・・・えっと、若月さん」
なにかにグッとこらえた彼女は、再び微笑むと、
「芽衣でいいよ、りゅう!」と言ってきた。
・・・手はふにふにしてて、心地よかった。
なんとなくずっと掴んでいると、彼女は心なしか顔を赤くし手を離した。
「それで、この人は城刃菜々さん。琉のお母さんだよ!」
「本当に覚えてないのね・・・」
そんな悲しい顔しないでください・・・。
なんだか自分まで悲しくなってくる。
「ごめんなさい・・・」
「・・・いいのよ。私のことは、普通にお母さんって呼んでね」
「はい」
家のこととか、後でちゃんと聞こう。
若月さんが続ける。
「それでこっちの男の子が──」
「俺は青峰優伍っていうんだ。これでもお前の親友だったつもりだぜ?」
そうなんだ。
「えっと・・・じゃあ、いろいろと頼りにします、優伍君」
「君はいらねぇよ〜。それに芽衣を頼ってやれよ」
すると芽衣は、勢いよく振り返った。
「なんであたし!?」
「だって芽衣は琉がス「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
芽衣の声がこだました。
すると、看護師さんが顔を覗かせた。
「どうかしましたか!?」
優伍が笑いながら答える。
「あ、いえ。大丈夫です。お騒がせしてすみません」
安堵した表情で看護師さんは去っていき、芽衣はすごい形相で優伍をにらんでいた。
「ま、まぁ芽衣、落ち着けって。琉だって困ってるじゃんか」
「!・・・なにかあったら、言ってね?りゅう」
そんな彼女がなんだか可笑しかった。
「あははっ・・・うん、お願いします、芽衣ちゃん」
すると芽衣は顔が赤くなり、立ち上がった。
「そ、そろそろ帰ろうかなぁ!!」
そんな大きな声でいわなくてもいいのに。
「そうね、もう夜だし・・・芽衣ちゃん、送るわ。じゃあ優伍、ちゃんと検査受けるのよ」
「またね、りゅう」
「じゃーなー」
「うん、またね」
3人が出て行き、部屋には自分ひとり。
はぁ・・・。
なぜかため息が出た。
なんで自分がここにいるのだろう・・・。なんで記憶喪失になったんだろう・・・。
考えれば考えるだけわからくなってくる。
前の自分は・・・どんな自分だったのかな。
横になってそんなことを考えていると、
いつの間にか、オレは眠っていた。
眠い・・・。
でも、勉強が!!!
テストなのに、何やってるんだろ、オレw