第5話 門番をやり過ごせ
「うーん、美味いなあ~、この果物は。」
俺はこれ見よがしにオークに向かって言う、用意した果実に齧りつきながら。
ゴクリっと喉を鳴らすオーク、俺が食べ物を口にしているのを見て、涎が垂れていた。
よしよし、食いついて来た。
門番のオークはもう俺の食べている果実に注目している、それを俺は少しずつ後ろへ移動して距離を取らせる。
俺の移動に合わせて、オークもまた移動をし、町の門から遠ざかる。
よしよし、良い調子。
更に後方へ移動し、オークを引き付ける。
その隙にエメラルドさんがオークの後ろへ回り込む、連携がとれている感じだ。
ここで俺が果実を地面に置いて、オークを誘導する。俺はその場から離れる。
地面に置いた果実に向かって進んで来たオークに、エメラルドさんが更に後ろから接近する。
俺が十分離れたところで、オークは我慢出来ないといった感じで果実を拾い、むさぼりつく。
「チャンス。」
エメラルドさんの声だった、オークは果実をむさぼりながら、振り向く事無く首を切り落とされる。
気付いた時にはもう遅い、オークはエメラルドさんを確認する間も無く絶命した。
「流石ですね、エメラルドさん。音も無く後ろから接近し、仕留める。」
「ジョーがオークの気を引いたからよ、とにかくこれで、町へ安全に入れますね。」
「はい。」
よしよし、まずは第一関門突破。これですんなりと町へ入れる。
確認するようにエメラルドさんが言う。
「門番が居なくなった事に気付かれる前に、賊を討伐したいわね。」
「まずは情報を集めないと、誰が味方で誰が敵か、判断のしようが無いですからね。」
俺が答えると、エメラルドさんは片眉を上げて質問する。
「ねえジョー、あなたこの町に居たのでしょう? 何か不思議に思った事とかないの?」
ふーむ、この町には世話になったし、特に問題は無かったと思うが。
「そうですねえ、門番以外はとくに………、ただ俺もこの町に滞在したのは数日ですから、何か見落としている可能性もあるかもしれませんね。」
門番を倒した以上、急いで事を起こさなければならない。
「賊に気付かれる前に行動しましょう。」
「そうね、急ぎましょう。」
こうして俺達は町へ入る事に成功した、今のところは順調だ。
町に入ると、雑多な人種が行き交っている。人族が多いが獣人族も居る。
エルフやドワーフといったのは見られない、町の至る所では屋台が出ている。
「お昼時は過ぎているのに、ここは賑やかね。」
「食べ物屋はどこも人気があるって事でしょうね。」
二人して雑踏に紛れ、町の中へ入り込む。門番のオークがやられたとかの騒ぎにはなっていない。
石造りの街並みを眺めながら、ますは町で一番大きな屋敷へ向かう。
町長のところだな、そこで色々と聞いてみようという事になった。
「まさか、いきなり襲われる、何て事は無いですよね?」
「私は王国の騎士よ、自分の立場が不利になる様な事はしないでしょうね。」
だと良いが、エメラルドさんを襲う様に手配したのが誰なのか?
まだ安心は出来ないだろう、気を引き締める必要はあるだろうな。
「行きますよ、ジョー。」
エメラルドさんを先頭にして、町中を歩く。俺は一応従者という事だからね。
町の中の道を歩いていると、目の前に大きな屋敷が見えて来た。
「あれが町長の屋敷ね。」
「中々立派な建物だなあ、随分と金が掛かっていそうだ。」
「ジョー、下品ですよ。私の従者なら品性を磨きなさい。」
そんな事を言われても、これが俺の地の部分だし。今更性格を変えろと言われてもなあ。
「努力します、けど、あまり期待はしないでくださいよ。」
「少しずつで構いません、けど、あまり私に恥をかかせないでね。」
そうか、そういう事なら努力しよう。従者だし。
町長の屋敷の玄関先まで来た、やはり大きい。門のところに何人か人が待たされている様だ。
「先客ですか?」
「分かりません、ですが、こちらがここへ来た理由を伝えれば、意外とすんなり通されるかもしれないわね。」
そう言って、エメラルドさんは門衛と会話をして、町長に取り次ぎを頼もうとしている。
「少々お待ちください。」
そう言って、門衛は駆け足で屋敷の中へ入って行った。
しばらく待っていると、門衛から町長からの返事が返ってきた。
「どうぞお通りください。」
「ありがとう、ジョー、入りますよ。」
俺は頷き、エメラルドさんの後に付いて行く。屋敷への案内は無いようだ。
扉に着いたら若いメイドさんが居て、俺達を案内してくれた。
「一応歓迎はされてるみたいですが。」
「まだ直接本人に会っていませんからね、さて、どんなお話が聞けるのかしら。」
エメラルドさんは乗り気だ、騎士である自分を無下に扱うならば、町長は怪しい。
それでなくても、賊と繋がっている可能性は高いのだ。警戒はすべきだろう。
メイドさんの案内で屋敷の中の一室へ通された、部屋の中も広い。
「部屋の調度品なども、中々金が掛かってますね。」
「もう、ジョー、下品ですよ。」
「すいません。ですが、羽振りは良さそうですね。」
エメラルドさんは頷き、部屋の中を見て回る。
俺はその場でただ突っ立っているだけだ、こういう時従者って何するんだ?
まあ、一々気を張っていてもキリが無い。ここは大人しく様子見だな。
メイドさんが退室して、部屋には俺達だけとなった。椅子にでも座って待っていようかな。
ふーむ、こういう時従者って主に断りもなく勝手に座って良い物だろうか?
いや、駄目だろう。ここはエメラルドさんに先に椅子に座って貰おう。
「エメラルドさん、ソファーに座りませんか?」
「いいけど、町長さんが部屋に入って来たらまた立ち上がる事になるわよ。」
ふーむ、疲れたとか言ってられない状況なのかな。もしくは直ぐに動けって事か。
考えるのは苦手だ、もっと分かり易い状況なら良かったんだが。
町長が敵か味方かまだ分からん、とにかく話を聞かなくては。
そうして、待たされる事数十分、部屋に入ってきた人物は二人だった。
「お待たせして申し訳ない、騎士殿。」
先に返事をしたのが、恐らく町長さんだろう。では、その後ろに控えている人は?
その人物を見たエメラルドさんは、顔を驚愕させ、言葉に詰まっていた。
「な!? なぜここにクエイド侯爵様が!?」
ふむ、どうやらここに居ちゃ不味い人らしいな。
おっと、それは侯爵様とやらを目撃した俺達もか?
エメラルドさんの所属している国の貴族か? 共も付けずにここに居るってのは。
どういう事だ?




