第4話 盗賊の町へ
「俺がエメラルドさんの従者になったのは良いんですが、エメラルドさんはこれからどうするんですか?」
俺は覚悟を決め、お試しとはいえこの人の従者になる事を決めた。
俺のこの異世界での目的は、ずばり観光、グルメ、そして、いずれ日本に帰る事。
この異世界での生活を満喫する為にも、まずは情報を集めなければ。
正直、自分の目的は達成できるかどうか分からん、なので、ここは女騎士のエメラルドさんに付いて行こうと決めた。
まずはこれからどう動くのかを聞きたいところだが、返事は直ぐに返ってこない。
エメラルドさんは何か考えている様子だ、俺は答えを待つ。
「私から貴方へ従者になれ、と言っておいて何だけど、私はまだジョーの事を信用してないわ。だから、必要最低限の事を話します。」
ふむ、まあ俺だって隠し事の一つや二つはあるから、べつに良いけど。
「聞かせてください。」
俺が話を聞く姿勢を執ると、エメラルドさんはコホンと咳払いを一つ。
その後、ゆっくりと話し始めた。
「私はある貴族から依頼を受けたの、その内容はこの先にある町の治安維持。」
「この先って事は、俺がさっきまで居た町なんですけど。あの町には世話になってましたが、治安が悪いって程では無かったと思いますよ。」
「それは貴方が「お客さん」だったからよ、実際賊達にいい様に使われていたじゃない。」
確かに、口車に乗る前まではみんな優しかった。
まあ結果は御覧の通りになったが、初めから怪しいとは思っていた。
「町の治安を回復させるのが、私があの町に行く理由です。ですが………。」
「ここで待ち伏せに遭った訳ですね?」
「そう言う事です、私があの町へ向かう事を知っているのは依頼した貴族か。」
「貴族側からの情報が伝わって来た町長って事ですか?」
「話が早くて助かります、で、おそらく町長と治安を悪くしている賊との関係はずぶずぶでしょうね。」
「なるほど、情報が漏れていたって訳ですか。」
ふーむ、話を聞く限りじゃ町長も怪しいな、賊の頭目が誰なのかも調べないといけないみたいだ。
「なので、私はあの町へ向かいます。ジョーも来なさい、私の従者なのだから。」
「それは良いのですが、町長が怪しいと分かっていて、町に入るのですか?」
「そうです、むしろ私を無下に扱った場合、調査対象に加えるだけです。」
そうなると、町ぐるみで悪さをしている可能性もあるって事かな?
「依頼はあくまで町の治安回復、その妨害を排除する事も含みます。」
「排除? 拘束や逮捕では無くてですか?」
「いえ、排除です。もう拘束や逮捕の段階をとっくに過ぎているのです。」
なる、俺以外にも実害が過去にあったって事か。
町の不穏な気配を何とかしようと派遣されたのが、エメラルドさんという事か。
「騎士を派遣って事は、依頼主は領主あたりでしょうか?」
「あまり詮索はしないでね、まだジョーの事をそこまで信用して無いって言ったでしょ。」
「そうでしたね、すいません。」
「分かればよろしい。では、早速町へ向かいましょうか。」
「はい、了解です。」
こうして俺達は行動を共にし、森を抜けて街道を進む。
自然豊かな森の香りを楽しみつつ、陽の光を浴びて進む。
しばらく歩くと、目に飛び込んで来たのは、町をぐるりと囲む壁。
まあ、街道沿いにただ歩いて来ただけなので、簡単に目的地へ辿り着く。
町の前まで来たところで、エメラルドさんは一旦立ち止まり、門番を見る。
「どうしましたか、エメラルドさん。」
エメラルドさんは腰の剣の柄に手を掛け、いつでも抜刀できる様に構える。
「ちょ、ちょっと、エメラルドさん?」
「あの門番のオーク、この町の門番じゃないわ。」
「え!? そりゃオークに似てるとは思いますが、え? オーク似の男ではなく、モンスターのオークだったんですか!?」
異世界なんだから、モンスター似の人が居ても不思議じゃないと思ってたけど。
まさかモンスターのオークだったとは。
「この町の門番は、人族の女性の筈です。依頼主からそう聞いています。」
「じゃあ、あの門番は一体?」
「ジョー、戦いになりますよ。警戒しなさい。」
戦い!? ここで!? もう!?
「あの門番は賊の使う魔法か何かで操られている魔物でしょう、賊の一味として利用されているでしょうね、おそらく賊の頭目を守る役目を担っているのでしょう。」
なんてこった、町を守る門番じゃなくて、賊を守る門番だって事か。
道理で俺がこの町へ来た時、何も言われずに入れた訳だ。
俺を利用しようと考えて、町に入れたってところか。
「この町はもう、賊のたまり場に成り下がっているみたいでしょうね。」
「町の人達だって、悪い人ばかりじゃありませんよ。」
「分かっています、おそらく恐怖で言う事をきかされているのでしょう。」
「なるほど。」
なら、ここで町を賊から解放しないと、町の住人が安心して眠れないだろう。
そう言う事なら、俺も出来る範囲で協力しよう。
この町の人達には世話になったからね。
「エメラルドさん、何か作戦があるのですか?」
「そんなの、剣で切り掛かれば問題無いでしょう?」
「だ、駄目ですよう! 何当たり前みたいに言ってるんですか!」
「だって、その方が手っ取り早いじゃない。」
駄目だこの人、暴力で物事を解決しようと考えている武闘派タイプだ。
そんなの、いくら命があっても足りないよ。ここは俺が何か案を提示しなくては。
ふーむ、どんな作戦でいくか、囮作戦? いや、魔物相手にそれは悪手だな。
元々は女性の門番だって言っていたし、そこを突くのは藪蛇だろう。
その女性門番だって、今どこに居るのかも。あのオークにやられた可能性もある。
モンスターのオークの気を向けるには、うーん、ここはやはり。
「エメラルドさん、オークって確か女が好きでしたよね?」
「ええ、虫唾が走りますけど、女を犯す事しか考えていない魔物です。それがどうかしましたか?」
「エメラルドさん、女性でしたよね?」
「喧嘩売ってんの? 私が男に見えると?」
「いえ、むしろ凄く良い女だと思いますが、女性特有のいわゆる「女」って感じがして。」
「なななななっ、何を言って!」
おや、照れてる? エメラルドさんってこういうの慣れていないのかな?
結構可愛いとこあるじゃん。
「うーん、エメラルドさんの「女」を武器にして、オークの気を削ぎながら叩く作戦を思いついたんですが、エメラルドさんがそんな感じでは、これは却下ですね。」
「あ、当たり前です! そんなの私が嫌です!」
ですよね、と、なると。
「じゃあ、俺が囮役をやって、その隙にエメラルドさんがオークを叩くか、町の中へ侵入する作戦はどうでしょう?」
「ジョーが囮? 何をやる気?」
「はい、オークが好きそうな食べ物を俺がこれ見よがしにオークの真ん前で食べて、オークの注意を引き付け、その隙にエメラルドさんが。」
「なるほど、そういう作戦ね。分かったわ! それでいきましょう!」
よし! 作戦は決まった。あとは食べ物を用意してオークの前に出るだけ。
俺は自分のスキル、「アイテムボックス」から果物を幾つか取り出す。
それを見ていたエメラルドさんが、ぎょっとした目で俺を見ていた。
「ちょっ! ちょっとあなた! まさかとは思うけど、アイテムボックスのスキル持ちだったの?」
「ん? ええ、そうですが。それが何か?」
「あなた! そのスキルがどれだけ重要なスキルか分かっているの!」
「え? ただのアイテムボックスですが?」
エメラルドさんが何を言っているのか分からんな。
「良い事。」
エメラルドさんは人差し指を一つ立て、俺に分かり易い様に説明しだした。
「アイテムボックスのスキル持ちっていうのは、何処からも引っ張りだこの優秀なスキルなのよ。だって、考えてもみなさい、幾らでも物が入る道具袋を持っていて、尚且つ重くない。これが輸送手段などで活用出来たらどんな手段を使ってでも手に入れようと必死になるでしょ!」
「ああ、まあ、確かに。」
「ただでさえ目立つスキルなのに、私の従者がそんなスキル持ってたら大問題よ!」
「え? そうなのですか?」
「そうなの! だから、この事は秘密にしておきなさい! いいわね!」
「は、はい。エメラルドさんがそう言うなら。」
別に気にし過ぎじゃないかなと思うんだけど、まあ、目立つのは良くないしな。
「じゃあ、早速作戦スタートですよ! いきます!」
俺は思い切って、門番のオークの前へ躍り出て、手に持った果物に齧りついた。




