第1話 プロローグ
とあるギルドの酒場にて――――
「だからさ、俺の仕事を手伝ってくれよ。な?」
「酒くさっ。」
酒臭い匂いを漂わせ、男が気安く話かけてくる。ついさっき会ったばかりだというのに………。
「確かに金は必要だと言ったが、そんな得体の知れない仕事を紹介されてもな。」
この酒臭い男が言うには、この町から少し離れた森の木陰に待機し、ある人物を取り押さえるという仕事だ。
「手伝うだけで良いんだよ、な? 簡単だろ。」
「しかしなぁ。」
誰を取り押さえるかも聞かされない、その誰かが「何」をやったのかも知らされない。
「なあ、本当にこの町の為になる仕事なのか? 俺はなんか胡散臭いと思うんだが。」
男は酒を煽り、プハ~っと息を吐きつつ、にやけ顔で言う。
「へっへっへ、いいか? 捕まえるのは女だ。それもとびっきりの美女さ。」
おいおい、まさかとは思うが奴隷商絡みとかじゃないよな。
「金は払うって言ってんだ、それも大金! どうだ? 俺と一緒にやらないか?」
「怪しいなぁ。」
確かに、お金はあるに越した事はない。
今の俺は無一文だ。
金がいる。
いるのだが、この男、信用して大丈夫か?
俺は再度、男に尋ねる。
「なあ、もう一回聞くけど、この町の為なんだよな? 犯罪の片棒を担がせる為じゃねぇよな?」
男は酒を更に煽り、笑顔で答えた。
「大丈夫だって、俺と一緒に森に行って待ち伏せして、そんで女を捕まえる。簡単だろう? それで大金が手に入るんだ、こんな美味しい仕事はないぜ。」
「マジで胡散臭い。」
俺は腕を組み、思案する。
そんな美味い話、本当にあるのか?
その女が何者で、何をやったのかも知らされない。
怪しい仕事の匂いがプンプンするぜ。
だが、この町の為になるらしい。俺はこの町に世話になっている。
この町の人達はみんな親切で優しい。
町の入り口を守る門番も、俺を無条件で町に入れてくれた。
俺みたいな得体の知れない奴を受け入れ、こうして仕事の依頼を斡旋してくれるギルドを紹介してくれた。
世話になっている以上、回って来た仕事は出来るだけ引き受けたい。
お金も必要だ、生きていく為には先立つモノが無くては。
この男からも昼飯をご馳走してもらった、怪しいが、むげにも出来ない。
「分かった、引き受けるよ。手伝うだけで良いんだよな?」
いざとなれば、とんずらすれば良い。そういう意味では俺は自由だ。
「おう! そうこなくっちゃ面白くねえ! やる事は簡単だ、待ち伏せして女を捕まえる。」
「分かった、手伝うだけだよな? その女に危害を加えるとかじゃ無いよな?」
「ああ、そうだ。手伝うだけで良い。いや~良かった! もう一人ぐらい欲しかったところだ。」
ん? もう一人?
「なあ、俺以外にも手伝う人が居るのか?」
「ああ、全部で五人ってとこか。」
五人!? 多くないか? 女性を一人捕まえるだけなのに。
怪しい、怪しいが、手伝うだけで大金が手に入る。
何か、犯罪の匂いがプンプンする。関わっちゃいけないような気がする。
「なあ、やっぱり俺………。」
「おっと! 男が一度引き受けると言った以上、やってもらうからな!」
こいつ! 酒の勢いで押し切りやがる。
まあでも、この町の為って言っていたし、お金は確かに必要だし。
「わかったよ、やるよ。手伝えばいいんだろ。」
「よーしよし、それで良いんだ。」
男は酒を煽り、ジョッキの中を最後まで飲み切ったみたいだ。
不意に手を上げ、周りに号令を掛ける。
「よーし野郎ども! いくぞ!」
男が声を張り上げると、周りに座っていた他の男達が一斉に声を上げた。
「「「「 へい! 頭!! 」」」」
「かしら?」
気が付くと、俺の周りに四人の男が揃い出て、酒臭い男を中心に円陣を組んだ。
「 やるぞおめえ等!! 」
「「「「 へい!!! 」」」」
なんだこのノリは? もしかして、いや、もしかしなくても山賊じゃないよな。
奢って貰った昼飯を食べ終わり、俺は男達の後ろへと移動し、距離を置く。
「大丈夫かな~、ホントにこの町の為になるんだよな~。」
俺は自分に言い聞かせ、溜息を付きつつ覚悟を決める。
やる事は一つ、女を捕まえる。
それだけ。
それでお金が貰える。
いかにも犯罪臭がするが、やむを得ない。
女に危害は加えないと言っていたし、ただ本当に捕まえるだけかもしれない。
いわゆる異世界転移をして、俺の心はワクワクして浮ついていた。
期待と不安が入り混じって、俺の判断は正しいのかも、よくわかってなかった。




