ゴリラvsAI ―世界一の頭脳を持つ俺が最強の肉体“ゴリラ”に転生し、もはや敵など居ない件。あと最強AIで異世界がやばい―
俺は世界一の天才だった。
それはもう天才だった。天才とかいう次元じゃなかった。それはもう半端ない天才だった。
生まれた瞬間に「この子はだいぶ知性を感じる顔ですね」と言われ、三歳で義務教育を修了し、六歳になった頃には未解決問題をあらかた未解決で居られなくし、八歳になる頃には、俺量産計画が「現存する物質で再現は無理」という結論に至った。
もうその頃には、”現存する”、”歴史上”、”空前絶後”を超えて、”宇宙のあらゆる世界線”で見ても、飛びぬけて頭が良かった。
しかし、俺は九歳の頃に病気にかかった。世界中の医者が俺を診たが、治すのは無理だったし、俺も無理だった。俺が無理だということは、世界中で無理だった。俺のあり得ないくらいバカ高かった知能はみるみる減少していき、最終的には、世界二位の大体1.5倍くらいの知能にまで下がってしまった。まるで使い物にならない。
世界中が落胆し、俺からどんどん人が離れていき、最後には国一個くらいの人口しか残らなかった。それでも俺は、残った人々のために頭を振り絞って尽力した。宇宙統一はついぞ叶わなかったが、俺を支えた企業は大体世界一の規模になった。
だが、未知の病気は俺の体をどんどん蝕んでいった。結局、俺は二十歳を超えられないまま、この世を去った。
「あなたは、あなたの居る世界で多大な貢献を果たしました。褒賞として、あなたが望む形で、異世界に転生させてあげましょう」
死んだ俺の前に、神々しい雰囲気の人間が現れ、俺にそう言った。
俺の性能の落ちきった頭脳では、俺が死んだことと、目の前に居る人は宇宙外の存在であり、俺を若干薄気味悪い気持ちで見ていることと、ここ宇宙外の大体の理と法則ぐらいしか分からなかったが、今の俺に選択肢はなく、促されるままに、俺は俺の気持ちを答えた。
「丈夫な体に生まれたいです。病気で死んだので。あと、筋力が欲しいです。前世では箸と鉛筆くらいしか持てなかったので」
「分かりました。あなたの願い、叶えましょう。それから、あなたが今から行く世界では、どっかの馬鹿が持ち込んだAIが過度に発展し、人の文明を破壊している所なので、出来れば救っていただけると嬉しいです」
俺の体は白い光に包まれ、気が付けば風吹く荒野の上に立っていた。
赤茶けた大地を、砂埃が巻きつつ風が吹いていく。周りには何もない荒野だが、地平に一本の文明的な塔が見えている。自分の姿勢が悪い、が、頭を上げようとしても上手くいかない。
俺は、地面についた自らの手を見下ろした。そこには、黒い毛で覆われた、ごつごつの手の平があった。
俺は優れた知能で超速で理解した。俺は異世界でゴリラに転生していた。
その後、ゴリラは、優れた身体能力で空を飛び回り、向かい来る、とんでもない量のあらゆる旧生命体殺戮兵器を返り討ちにし、元凶となるAIがある世界タワーまで直感で突き進み、地上70kmの最上階にあった、20トンほどもあるコンピューターを一撃で破壊した。悪は去った。
そう、世界一の頭脳にゴリラの体。もはや彼に敵う敵など居なかったのだ。
そうして世界は平和になった。めでたしめでたし。