表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/187

【98】新入生の戦い編③ 〜決戦の予感〜


 夕暮れの校舎裏。

 茜色の光が、冷たい土埃を照らしていた。


「ハァ……ハァ……」

 校庭の隅、ラッティたちはぐったりと腰を下ろしていた。

 ドナックは槍を脇に置き、ミーニィは膝の上で両手を握りしめ、小さく震えている。

 ラッティの顔は腫れ上がり、制服は破れ、拳には血が滲んでいた。


「……っ、くそ……俺、ぜんぜん……勝てなかった……」

 唇を噛みしめ、ラッティは地面を叩く。

 泥の上に拳を打ちつけ、肩を震わせる少年に、ドナックとミーニィは何も言えなかった。


 ──その時だった。


「おい!お前ら、どうしたんだ!?」


 パッと視界の先が明るくなる。

 そこに駆け込んできたのは──


「アーシス先輩……!」


「何!?どーしたの!?どこが痛む!?」

 アップルがしゃがみこみ、すぐさまヒーリングの詠唱を始める。

 ミーニィが驚きで目を見張り、ドナックも安堵の吐息を漏らした。


「……事情を、聞かせてくれ」

 アーシスの瞳はまっすぐだった。

 言葉を選ぶように、ラッティは小さな声で事の顛末を語った。


 すべてを聞き終えたあと──


「……なるほど」

 アーシスはゆっくりと立ち上がった。


「すみません、弟子でありながら無様にやられてしまって…」

 俯きながらラッティは呟いた。


「………」

(……いや、弟子じゃないけどな…)

 アーシスは真顔のまま言葉を飲み込んだ。


「ふん、お前はまだ負けてない」

 アーシスの隣で仁王立ちしているシルティが口を開いた。


「……え?」

 顔を上げたラッティに、シルティは指を突きつけた。


「タイマンで勝てば勝ちだ!!」


 一瞬の静寂の後、シルティは続ける。

「それとも、勝つ自信がないのか?」


 ぐっと拳を握りしめるラッティ。

 目の奥で、くすぶっていた炎がはぜた。


「──あります!!」

 ラッティの叫びに、仲間たちの顔がぱっと輝いた。



   ◇ ◇ ◇


 一方、1年C組教室。


 窓の外から、掌サイズの小さな魔術飛行機が飛び込んできた。

 スッと降下し、中央の机にぴたりと紙を落とす。


 紙を開いたプルーが、口角を吊り上げる。

「……果し状だと?」


「上等だ……ぶっ壊してやる!!」

 四天王たちの顔が、ぞくりと笑みに歪む。



   ◇ ◇ ◇


 ──その日の夕暮れ。

 校庭の中心に、ラッティたち3人が立っていた。

 吹き抜ける風に、制服がばさりと揺れる。


「来たぞ──!」


 校舎から溢れ出してくるのは、C組の生徒たち。

 先頭に立つのは、巨漢のプルー、そして背後には四天王の影。


「プルゥゥゥゥ!!1対1で勝負しろぉぉ!!」


 ラッティが叫ぶと、プルーが肩を揺らして笑った。

「ああん?サシなら勝てるとでも思ってんのか?」


「クズが……いいだろう、やってやるよ!」

 群衆が距離を取り、グラウンドの中心に二人が立つ。


 砂煙が走る。


「……いくぞ!!」

 叫びと同時に駆け出すラッティ──。


「……ふっ」

 プルーがすっと手を挙げる。

 ──それを合図に後方から魔法弾が飛来する。


「くくく、ダンジョンじゃあ“1対1”なんてもんはねぇんだよ、バカが!」


 ──が、次の瞬間。


「──《シールド・フォース》!!」

 空間に光の壁が広がり、魔法弾を跳ね返した。


「……は?」

 驚愕の表情を浮かべるプルーたち。


「──《セレスティアル・ドーム》!」

 地面に光の輪が描かれ、その輪は一瞬のうちに縦へと伸び、天を覆う半球の結界を形成した。

 直径10メートルほどの結界にはラッティとプルーのみが取り囲まれた。


「……よぉ、お前ら」

 結界の外に立つアーシスが、剣を肩にかけて笑う。

 両隣には、光の壁と半球の結界を展開したアップルとマルミィが立つ──


「邪魔はしない。決着はお前たちでつけろ」


「……なんだテメェら、汚ねぇぞ!!出せ!!」

 プルーが拳で結界を殴るが、硬質な音だけが虚しく響いた。


「汚い?ダンジョンじゃあ“汚い”なんて通じないぞ?」

 シルティが不敵に笑う。


「くっ……」


「……さてと、外は外で片付けるか」

 シルティが腰を鳴らす。


「はい、そこの君たち、頑張ってね!」

 アップルがドナックとミーニィに笑顔を向ける。


「……あんたたちがやるのよ!」


 ドナックは無言で槍を握り、ミーニィは深く息を吸った。

「ラッティにだけ、いい顔させてらんねぇよな……」 


 ──結界の中と外。

 それぞれの戦いがはじまろうとしていた。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ