【97】新入生の戦い編② 〜正義の灯火〜
昼休み、校舎の中庭はまるで小さな市場のような喧騒に包まれていた。
購買部に向かう列、芝生で弁当を広げる生徒たち、そして木陰では魔導タブレットを囲む生徒の集団。
その一角を、ラッティ、ドナック、ミーニィの3人が歩いていた。
「……やっぱかっこいいなぁ、エピック・リンクは……」
ラッティはさっきの出来事を何度も反芻し、興奮気味に早口で話していた。
「弟子にしてくださいって言った時のアーシス先輩の顔、見たか!?めっちゃ戸惑ってたけど、絶対悪い気はしてなかっただろ!」
「はあ……ほんと単純だな、お前は」
ドナックは半ば呆れ顔で肩をすくめる。
「でも……いいんじゃない?憧れの人に近づけるなら」
ミーニィが微笑むと、ラッティは満面の笑顔で親指を立てた。
「だろー!?やっぱ俺、間違ってなかったよな!!」
そんな能天気なやりとりの中、不意に教室棟から足音が響いた。
「……っ!」
一人のA組生徒が、傷だらけのまま廊下をよろめいてくる。制服の胸元には、見慣れない黒いバッジが輝いていた。
「お、おい!だいじょ──」
「……あ、あいつらが……A組にも……」
ぼそりと、そう漏らして倒れ込む。
駆け寄ったラッティが彼を支えると、視線の端に見慣れたマークがちらりと映った。
「……ニードレスウォリアーズ……」
周囲に緊張が走る。
ドナックは目を細め、ミーニィは小さく肩を震わせた。
「ついに、ここまで……」
ラッティは、無意識に拳を握りしめていた。
◇ ◇ ◇
一方、1年C組の教室。
「……残るは、ラッティとかいう奴らのグループぐらいか」 椅子を後ろ向きにして座り、顎を手で支えるのは四天王の一人、フィーグ。
「でも、あいつら2年の奴らと仲いいみたいだぜ?」
白魔道士のカーズが口を挟む。
「関係あるか!」
豪快な声と共に机を叩いたのは、ニードレスウォリアーズのリーダー、プルー=ガルシェイド。
「冒険者ってのは、強いのが偉いんだ。1年も2年も関係ねぇ。……1年が終わったら、2年をぶっ潰す!」
「ふん……やるなら、やるだけよ」
吊り目のベルエルが本を読みながら呟いた。
──その場に漂うのは、明確な“戦の予感”だった。
◇ ◇ ◇
数日後、放課後。
ラッティたちの前に、ついにプルーたちが現れた。
「バッジ、買えば手ぇ出さねぇでいてやるぜ?」
そう吐き捨てるプルーに、ラッティは一歩前へ出た。
「ふざけるな!」
声が響き、周囲の空気が一変する。
「おーおー、威勢がいいじゃねぇか」
直後、戦いが始まった。
ラッティが飛び出し、ドナックが槍を構え、ミーニィが魔法を詠唱する──
だが、相手は四天王率いる軍団。
次々と放たれる打撃、連携された攻撃、魔法の援護。
ラッティは反撃する暇もなく、何度も地面に叩きつけられた。
「くっそ……!」
必死に立ち上がるが、体がついてこない。
「やれやれ、バカが……」
後方から迫る魔法の気配。
その瞬間、ドナックが槍を大きく振り回し、空間を切り裂いた。
「──今だ、ミーニィ!」
「煙よ、舞い上がれ──《スモークミラージュ》!」
一気に視界が白く染まり、ミーニィの煙幕が敵の視界を奪った。
「こっちだ、逃げるぞ!」
息を切らし、ラッティを支えるドナック。
ミーニィが振り返り、涙ぐみそうな笑顔を見せる。
「……勝てなかった……でも、まだ終わってない……」
彼らの胸に、消えない炎がわずかに灯っていた。
(つづく)




