【90】はじめての護衛任務編② 〜商人の街 マルケスタ到着!〜
エピック・リンクの4人は、巨大な石造りの門の前に立っていた。
「……これが、マルケスタ……!」
眼前に広がるのは、想像をはるかに超える賑わいの街。
石畳の広場を埋め尽くす人々、所狭しと並ぶ屋台、荷馬車を引く隊列、異国の衣装を身にまとった商人たち──。
耳に入るのは商人の掛け声、楽器の音色、そして獣の鳴き声すら混じる、まさに“混沌と活気”の街だった。
「す、すげぇぇ……」
思わず感嘆の声を上げるアーシスとシルティ。
そこに、後ろから低く響く声が聞こえた。
「おっと、道を開けてくれ。」
振り向けば、身長2メートルはあろうかという屈強な戦士が、大トカゲ型のモンスターを肩に担ぎ、のしのしと通り過ぎていった。
「どわっ」
思わず道を譲りながら、アーシスとシルティは顔を見合わせて笑う。興奮と高揚が隠せない。
「ふふん、驚いたでしょ?」
胸を張るアップルの隣で、マルミィもクスっと微笑んでいる。
「ん?…お前ら、この街来たことあるのか?」
「わたしたち、ヴァスタリアの出身だから」
「そ、この街から船で行き来してるってわけ」
マルミィとアップルが答える。
「私は、初めてだ」
なぜか得意げに胸を張るシルティ。
(……だろうな…)
誰もが心の中で突っ込んだ。
「マルケスタは、港・河川・街道が交わる“流通の中心”として栄えてる商人の街、です。」
マルミィが説明を続ける。
そこへ、護衛してきた商人スコッチが満足げな顔で荷を降ろした。
「みなさん、ありがとうございました!おかげで無事に到着できましたよ。」
スコッチは謝礼の入った袋をアーシスに手渡し、深く一礼すると、人混みにまぎれてあっという間に姿を消した。
「さてと……せっかくだし、観光してく?」
アップルがにやっと笑うと、アーシスとシルティの目が輝いた。
「まずは大市場ホールだね!」
◇ ◇ ◇
異国風のドーム型建築、色とりどりのタイルで装飾された「大市場ホール」は、迷路のように屋台や店舗が広がり、エキゾチックな香りと熱気で満ちていた。
「これは魔力香辛料よ!料理に使うと特定の魔法が強化されたり、体力が回復したりするんだ」
アップルが屋台の商品を指さす。
「おお〜!」
アーシスとシルティが目を丸くする。
「星の粉、買っておこうかな」
マルミィは淡々とショッピングをしている。
スクロール屋では、壁一面にびっしりと並ぶ魔法の巻物。
「すげぇ、こんなに種類が……!」
アーシスとシルティが感嘆する。
「ウィンドホルムの10倍はあるわね」
アップルが自慢げに言い、マルミィは迷わず回復系と毒消し系をカゴに入れていった。
宝飾品の店に入ると、目を奪うような煌びやかな装飾品がずらり。
「わ〜〜っ……」
剣、盾、杖、アクセサリー……それぞれの興味の品を前に目を輝かせる。
「これは良いなぁ……値段は……」
──値札を見た瞬間、全員の顔が固まった。
「ま、また今度にしよっか……」
そっと宝飾品を棚に戻す一同。
その時──。
「みんな、あそこ!!」
突然シルティが叫んだ。
……目線の先には──"りんご飴"の屋台。
「りんご、飴……!?」
初めて見る甘味に、シルティの目は真剣そのもの。
「……食べてみる?」
アップルが促すと、シルティは目を輝かせ、大きくうなずいた。
おそるおそるりんご飴を口にするシルティ。
「はう、おふ…」
「なんだこの食感は…。ぺろっ、カリっ」
(はふ〜ん……)
幸せそうな顔でりんご飴にかぶりつくシルティ。その頬はほんのり赤い。
「こっちはなんだ?」
アーシスはふと裏路地に目を向ける。
薄暗い路地の奥、黒ずくめの連中がじっとこっちを見ている。
「おっと…、そこは"闇市"。良い子は怪我するからのぞいちゃダメ」
アップルが冷静にアーシスを引き戻した。
さらに進むと、広場で踊り子たちのショーに出くわした。太鼓とラッパが鳴り響き、アラビアンな衣装をまとった美女たちが華麗に舞う。
「うわぁ……」
釘付けになるアーシス。
その時、一人の踊り子がアーシスの前に来て、艶やかにウィンク。
アップルが小声で囁く(ほら、チップ、挟んであげて)。
「あ、ああ……!」
緊張した手つきでチップを渡すと──不意打ちのキッスがアーシスの頬に。
「な……!」
顔を真っ赤にするアーシスを、ふくれっ面のシルティとマルミィがじっと睨んでいた。
◇ ◇ ◇
やがて、一同は賑やかな市場を抜け、神聖な空気が流れる広場にたどり着いた。
「ここは“商業神殿”。商売繁盛の神を祀ってる、マルケスタの象徴的な場所だよ」
アップルが説明する。
──だが、その広場の片隅で、不穏な気配が漂っていた。ざわつく人混みの奥──老婆が台座に立ち、両脇のフード姿の男たちと共に、何やら叫んでいる。
「魔王様の時代がどれだけ平和だったか……思い出せ!」
老婆の目はぎらつき、黒紫に怪しく光るお守りが首元で揺れている。
「……なんだ?」
アーシスたちの耳にもその声が届く。
老婆は続ける。
「魔王様亡き後、世界がどれだけ苦しみに満ちた世界になったことか……この星は泣いておる!」
「……嫌な気配にゃ」
にゃんぴんも背中の毛を逆立てる。
そこへ、ヴァード隊が駆け込んできた。
「この広場での集会は禁止されている!すぐに解散せよ!」
「……すぐに分かる。この世界の真実がな……」
老婆は不気味な笑みを浮かべながら、逃げるように消えていった。
演説に集まっていた人々も、やがて散り散りになっていく──その表情は、まるで魂を抜かれたようだった。
「……なんなんだ、あいつら…」
アーシスはその異様な光景に戸惑いを隠せない。
「……あいつらは、"魔信教"……。
魔王を倒したことが今の乱世の根源だと主張して、魔王を崇めている宗教よ」
アップルが説明する。
「……最近、世界各地で布教活動が広がってる、みたい」
マルミィが補足する。
「……なんだよそれ…」
その時、よそ見していたアーシスが人に当たる。
ドスッ
「あ、すみません」
するとすぐに言葉が返ってくる。
「断る!!」
「え……?」
聞き覚えのあるセリフに振り返ると──そこにはマァリーが仁王立ちしていた。
「なんだお前ら、なんでこんなところにいるんだ?」
(つづく)




