【8】乙女大爆発
冒険者育成学校のとある昼休み。
天気は快晴。日差しぽかぽか。芝生ふかふか。
だというのに、ひとりブスッとふくれてお弁当箱をつついている少女がいた。
「……あのさー……最近、マルミィちゃんとアーシスくんが、やたら仲良くない……?」
そう呟いたのは、金髪ショートウェーブの丸メガネの魔法少女(仮)アップル。
手作りのリンゴ型おにぎり(アップルだけに)をモグモグしながら、じと〜っと遠くのベンチを睨んでいる。
視線の先では、アーシスとマルミィが並んで座って、楽しげに魔力実習の話をしていた。
「……はぁ!?なにその距離感!?近すぎでしょ!距離感おかしくない!?私だったらあの距離で魔力ぶっ放すからね!?」
怒りのアップル、リンゴおにぎりを握りつぶす。
中から甘辛い味噌がプチュッと飛び出し、芝生に染みを作った。
そんな彼女の肩に──ふわりと半透明の猫が乗った。
「……にゃふ〜、これまた面倒くさい気配にゃ〜……」
にゃんぴんである。
しかし。
「……?」
アップルはくるりと振り返った。が、そこには誰もいない。
「……変な風が吹いた気がした……」
「……見えてないにゃ……やっぱりアップルちゃん、感受性より反応性の方が高いにゃ……」
小さな声でブツブツと分析するにゃんぴんを、アップルは華麗にスルー。視界に入ってすらいない。
「うう〜〜〜私だって!私だって仲良くなりたいのに〜〜〜!!」
アップル、芝生の上でじたばた転がる。
「そもそもさ〜〜〜、最初に助けてくれたの、私だったじゃん!?早朝の森で!モンスターに襲われてたとこを助けられて!運命感じちゃって!そのあと同じクラスでびっくりして!!あの奇跡をどうして忘れられるの〜〜〜〜!?」
「……うるさいにゃ〜〜……」
にゃんぴんが耳をふさぐが、もちろん彼女にはその姿は見えない。
◇ ◇ ◇
午後の授業、「魔法発動応用」。
今日の課題は、指定魔法を安全に、正確に放つ練習。
「はい、アップルさん、お願いします」
「はーい!やってやりますとも!うふふふふふふふふ!」
謎のテンションで前に出るアップル。
(こうなったらアレしかない……私の!本気の!魅せ魔法っ!!)
アップルは両手を高く上げ、勢いよく叫んだ。
「《紅蓮爆咲――アップル・インフェルノォォォッ!!》」
──どっかーん!!
その瞬間、教室が一瞬で紅に染まった。
「ぎゃああああ!?」
「わぁぁ煙いっ!?」
「ちょっと何してるんですのアップルさん!!」
大爆発。
爆風の中心でアーシスが走り込んでくる。
「おいアップル!?大丈夫か!?」
咄嗟に彼は彼女を抱きかかえ、床に転がりながらガードする形に。
煙が晴れた時、教室のど真ん中で、アーシスの腕の中に収まったアップルが──涙目で震えていた。
「……だってぇ……うう……わ、わたしだけ……仲良くなれてない気がして……!」
「バカ!何やってんだよ、無茶しすぎだろ!」
「でもでもでも!わたしも!アーシスくんと!仲良くなりたいのぉぉぉ!!」
◇ ◇ ◇
その日の放課後。中庭のベンチ。
落ち着いたアップルが、少し恥ずかしそうにうつむいて言った。
「……私だけ、なんとなく輪に入れてない気がして……いやだったの」
「そんなこと、ないだろ」
アーシスはあっさりと言った。
「最初に助けたの、お前だったじゃん。俺、ちゃんと覚えてるぞ」
「……うぇ……うそ……」
「それに、俺はもう“仲間”だって思ってたからな」
アップルは目を見開き──ぶわっと泣いた。
「うわーん!アーシスくんのバカー!でもだいすきー!!」
そして彼に飛びつく。
そのまま押し倒す勢いで転がる二人。
「うおっ!?ちょ、ちょっと!重い!」
「やだやだやだー!離れないもん!!」
そして少し離れた茂みから。
マルミィとシルティが、物陰からじーーっと様子を見ていた。
「……近い」
「……だっこされてた……」
「……おなか、ぐぅって鳴った……」
「……シルティちゃん、それ今関係ない」
そんなふたりを見ながら、にゃんぴんがぽつり。
「これは……愛と嫉妬と胃袋のトライアングル、にゃ〜……」
(つづく)




