【85】先輩たちの卒業式 〜命を継ぐ者たち〜
春が近づいていた。とはいえ、まだ風は冷たく、校庭に立つ者たちのローブを揺らしている。
冒険者育成学校、卒業式の日。
試験の緊張もやや和らいだその日、校庭には生徒たちが整列していた。
壇上には、卒業生の代表たちが整然と並んでいる。
「卒業生代表、ガイラ=ジンクス!」
教師の号令が響くと、壇の中央へと進み出る長身の男がいた。
筋骨隆々の体に身を包んだファイター、ガイラ。
アーシスたちと同じAチームとして体育祭を共に戦った、頼れる先輩だ。
静寂のなか、ガイラが口を開いた。
「……オレたちは、冒険者育成学校で多くのことを学んだ。仲間の力、危機の恐怖、自分自身の未熟さ……。だけど、それでも前へ進む心の在り方を、ここで教わった!」
力強く拳を握るガイラ。
「今日、俺たちはここを卒業し、真の冒険者になる。ダンジョンもモンスターも、今までのように練習じゃない。命をかけた戦いだ。だが──命をかける覚悟は、ここで学んだ!」
風が吹く中、言葉の重みが胸に刺さる。
在校生たちがじっと見つめている中、ガイラの言葉は続いた。
「在校生諸君!来年の今日、今度はお前たちがここに立て!そして──俺たちを超えてみせろ!!」
──拍手。大きな、大きな拍手が校庭を包み込んだ。
◇ ◇ ◇
式が終わり、生徒たちが思い思いに言葉を交わしているなか。
アーシスたちエピック・リンクは、ガイラ先輩のもとへ駆け寄った。
「ガイ先輩!卒業おめでとうございます!」
アーシスが駆け寄って言う。
「おぉ、アーシス!」
振り返るガイラは、式とは打って変わった屈託のない笑顔を見せる。
「冒険者試験……受かったんですね」
「あったりまえだろ!」
ガイラは笑いながら胸を叩くと、ふっと真剣な表情に変わる。
「……ここからは自己責任だ。命を賭けた冒険が始まる。だが、それを背負ってこその冒険者だ。──お前たちも、来年は続けよ!」
「……はいっ!」
アーシスが拳を握る。
隣でシルティも、小さく頷いた。アップルもにこりと微笑み、マルミィは瞳を潤ませながら「がんばります」と答えた。
「じゃあな、アーシス!……いや、エピック・リンク!!」
そう言い残すと、ガイラは仲間たちと共に、校門の方へ歩いていった。
その背中は、まるでこれから始まる長い冒険の扉を押し開けるかのように、まっすぐに前を向いていた。
「……行っちゃいましたね」
マルミィがぽつりと呟く。
「……うん。でも、俺たちの道も、これから始まるんだ」 アーシスは、遠ざかる背中を見つめながら静かに言った。
それは、一区切りであり、新たな始まりでもある日だった。
エピック・リンクの新しい一年が、また動き出す──。
【第一章 冒険者育成学校編、完】




