【84】進級試験編⑦ 〜明日への合格者発表〜
薄曇りの空の下、生徒たちが講堂へと集まっていた。
進級試験の全日程を終え、今はその合否を見届けるとき。誰もが緊張した面持ちで、自分の名前が呼ばれるのを待っている。
その中央、エピック・リンクの四人は、どこか沈んだ表情で並んでいた。肩を落とし、声もなく──まるで、もうすべてが終わってしまったかのように。
周囲ではざわめきが漏れていた。
「……なんか、人数少なくね?」
「ああ、脱落確定のやつらは来てないんだよ」
そんな何気ない一言が、アーシスたちの胸を突いた。
だが。
「……なぁ、みんな」
アーシスがゆっくりと口を開いた。
「確かに俺たちは……ダメだった。でもさ、だからって合格した奴らを暗い顔で見送るのって、違うと思うんだ」
シルティが少し目を見開く。アップルが彼を見つめる。
「もし逆の立場だったら……気まずいもんね」
アップルが苦笑した。
「……お祝い、しよう。ちゃんと、胸張って」
マルミィが小さく頷く。
「ふ、これは一本取られたな」
シルティが笑う。
気づけば四人の顔からは、沈んだ色が消えていた。力強く背筋を伸ばし、ステージを見据える。
◇ ◇ ◇
壇上に、豊かな白ひげを揺らす男が現れる。
「……ガンドールである!」
重々しく言い放つ声が、講堂に響き渡った。
「まずは、二日間の試練を乗り越えたお前たちを称えたい。進級できる者も、できない者もいる。だが、この一年の歩みを誇れ。すべては、未来へと繋がっているのだから」
静まり返る講堂。
「──では、合格者を発表する」
場が緊張で凍りつく。
「ダルウィン=ムーンウォーカー!」
歓声が上がる中、アーシスが声を張った。「やったな、ダルウィン!!」
続いて、「ナーベ=ナーベラス!」
ナーベが静かに頭を下げると、アーシスが笑顔で手を振った。「イェイ!ナーベ、やったな!」
そして次々に名前が呼ばれ、生徒たちが歓声と拍手で包まれていく。アーシスたちはそのすべてに、誰よりも大きな声で拍手を送った。
だが──何人呼ばれても、アーシスたちの名前はない。
「次が、最後の発表となる──」
その言葉に、四人の心臓がぎゅっと収縮する。
シルティはそっと笑って目を閉じた。アップルがマルミィの肩に手を添え、マルミィは俯きながらも手を重ねた。
そして──
「……エピック・リンク!お前ら全員、合格だ!!」
「──!?」
頭が追いつかず、誰かを祝福しようとしていたアーシスの声が止まる。
「な、なんで……?」
手を取り合い、涙ぐむアップルとマルミィ。シルティが小さく目を見開く。
アーシスが叫んだ。
「で、でも俺たちは、タイムオーバーだったんですよ!? ルールじゃ、落ちてるはずじゃ──!」
まっすぐなその声に、ガンドールがゆっくりと頷いた。
「ふむ、確かにお前たちはタイムオーバーで脱落じゃ」
一瞬、四人の表情が曇る。
「じゃが、最後に見せたお前たちの行動。あれは“冒険者”として、最高の選択であったと、ここにいるすべての者が認めておる。よって、特別勇気ポイント1,000点を加算し、逆転合格とする!!」
一瞬、静まり返ったあと、
どこかの席から、誰かが立ち上がり、拍手を始めた。
次々に、それが広がっていく。
──大きな拍手が、エピック・リンクに降り注いだ。
「……お、おれたち……」
アーシスはぽかんとした顔で天井を見上げた。
「やったぁぁ!!」
アップルが両手を振り回して叫ぶ。
「わ、私たち、進級……!」
マルミィの目に、じんわりと涙がにじんでいた。
「……ふん。まあ、当然だ」
シルティはそっぽを向きながらも、口元はゆるんでいた。
嵐のような歓声はまだ続いている。
ステージの端で、ダルウィンが笑う。
「やれやれ、これで一安心だな」
その隣でナーベが目を細めた。
「……どうせ、もし彼らが脱落してたら、合格返上するつもりだったんでしょう?」
「なっ……!?」
「……あなたの“正義”も認める、正義ね…ふふ」
ナーベは遠くから微笑みをアーシスに向けていた。
ステージ後方、影の中でパブロフが酒瓶を傾けながら笑った。
「ったく……前代未聞だぜ、タイムオーバーからの逆転合格なんてよ。……だが──まあ、悪くない」
光のなか、輝かしく並んでいるエピック・リンクの四人。
彼らは、この光景を目に焼き付けていた。
そして、新たなる物語、新たなる挑戦がまた始まろうとしている──。
──ちなみに、グリーピーとナスケは「補欠合格」となった。これもまた、前代未聞である。
(進級試験編、完)




