【83】進級試験編⑥ 〜決断の代償〜
未調査ダンジョン。
第三階層。
とある一角。
キィィィン。
──間一髪、アーシスは少女の前に飛び込み、剣で一撃を防いだ。
「ふー……間に合った。大丈夫か?」
「う、うん……」
そして、アーシスは躊躇なく、自分の脱出アイテムを少女に使った。
「!?」
光に包まれて転移していく少女。
グヴォォォォォ。
──モンスターの咆哮が、冷えた空気を震わせた。
アーシスは、ひとりその場に立っていた。
四方を囲む牙、爪、暗い光を宿した目。
自らの脱出アイテムを使い、逃げ道を断った彼は、今や孤立無援の状態だった。
「ふぅ……さぁて、どうするか」
アーシスは剣の柄を強く握りしめる。
後ろには誰もいない。
けれど、アーシスの瞳はまっすぐに前を向いていた。
「──全部、倒して生き残るだけだろ?」
咆哮に応えるように、彼は突っ込んだ。
斬撃。跳躍。受け流し。
次から次へと襲いかかる魔物たちを、紙一重の距離でいなし、切り伏せていく。
──が。
「くっ……!」
背後。
不意打ちの一撃に、身体が浮き、壁に叩きつけられた。
「ぐっ……ははっ、さすがに無茶だったか……」
膝をつくアーシス。
モンスターたちが牙を剥き、今まさにとどめを──
──その瞬間だった。
光が、フロアを裂いた。
「《ミラージュ・フラッシュ!》!」
爆風と共にモンスターたちが吹き飛ぶ。
その後ろから、真紅の髪が宙を舞った。
「全く……とんだお人好しだよ、アーシスは」
シルティだった。
次の瞬間、回復魔法がアーシスを包み込む。
「ふわぁ……もう、無茶ばっかりなんだからぁ」
アップルが頬を膨らませて言う。
「だ、誰かが、助けを求めていたなら……それを見逃すなんて、アーシスくんじゃない、です……」
マルミィが魔力を込めた杖を構える。
「……お、お前ら……」
アーシスの目が見開かれる。
「とにかく!」
アップルが叫ぶ。
「アーシスがやるなら、私たちもやる!エピック・リンクは、いつでも全員一緒!!」
「「「おう!!!」」」
チーム戦が、はじまった。
四人の息は完璧だった。
アーシスの剣が正面を切り裂き、シルティの斬撃が左右を制圧する。
後衛のマルミィが広域魔法で敵の動きを封じ、アップルが支援と回復を挟み込む。
「──アーシス、上!」
「わかってる!」
斬撃、火球、結界、風刃── 連携は、まさに極まっていた。
そして──
「トドメだッ!!」
アーシスが最後の魔獣に跳びかかり、真一文字に剣を振り下ろす。
ズシャアアアアア!!
──静寂が、訪れた。
荒く息を吐く中で、誰かが言った。
「……やった……!」
モンスターの群れは壊滅した。
しかし──
その瞬間、頭上の結界から、鈍い鐘の音が響き渡る。
──制限時間、終了。
「……まあ、仕方ないよね」
アップルが肩をすくめる。
「こ、困ってる人……見過ごせない、です」
マルミィが小さく呟く。
「……私たちは正しいことをした。胸張って、戻るぞ」
シルティが言う。
「……ああ」
アーシスは、静かに笑った。
そして、四人は一歩ずつ出口へと歩き出す。
失格かもしれない。
けれど──後悔は、一切なかった。
(このメンバーで、俺はこれからも前に進む)
──つづく。




