【80】進級試験編③ 〜試験開始!〜
冬の澄んだ空気が校舎を包み込む中、進級試験の初日が始まろうとしていた。
朝から緊張の面持ちで校舎に集まった生徒たちの中で、ひときわ深刻な表情を浮かべていたのは──アーシスだった。
試験開始直前。教室の自席に座り、配布された筆記用紙を前にして彼は汗を垂らしていた。
「ふふ……俺にとってはここが最大の山場と言っても過言ではないぜ……」
深く息を吸い込んでつぶやくその横から、アップルがズバッとツッコミを入れる。
「なーにえらそうに言ってるの!落ちるんじゃないよ!」
「わ、わかってるって……」
それでもアーシスの目は真剣だった。心の中には、あの夜──仲間たちと共に過ごした勉強会の光景が、温かく残っていた。
(大丈夫だ……。あの夜、みんなが付き合ってくれた。無駄にはしない……!)
筆記試験には、モンスターの弱点や罠の構造、魔法の理論など、これまでの学びが試された。アーシスはひとつひとつ、問題を噛みしめるようにペンを走らせていく。
◇ ◇ ◇
──午後。
筆記試験を終えた生徒たちは、実技試験の会場へと移動していた。
「よっしゃあああ!ようやく体が動かせるぜええぇ!」
筆記から解き放たれたアーシスは、晴れやかな笑顔で叫んだ。普段の彼らしい、豪快なテンションだ。
実技試験では、生徒ごとに剣術、攻撃魔法、回復魔法、補助支援など、それぞれの専門に応じた試験が行われた。
エピック・リンクの四人──アーシス、シルティ、マルミィ、アップル──は、どの試験でも安定した実力を発揮していった。
特にアーシスは、筆記で見せた不安を吹き飛ばすかのように鋭い剣さばきを見せ、試験官たちの目を見張らせた。
「次、シルティ=グレッチ!」
呼ばれて静かに立ち上がった少女は、淡々と進み出る。模擬戦での剣技は、洗練されていながらも凛として、どこか美しかった。
◇ ◇ ◇
──夕刻。
全ての試験が終わった頃、寮の食堂の一角には、疲れながらも達成感に満ちた表情の四人が集まっていた。
「アーシス、筆記はどうだったんだ?」
夕食のスープをすすりながらシルティが尋ねると、アーシスは少し目をそらしてから、にやりと笑った。
「……なんとかなったはずだ。たぶん……」
「ふふ、よかったです」
マルミィが胸をなでおろす。
「明日はいよいよ、チーム試験だね」
アップルの言葉に、場の空気が引き締まる。
「……本物のダンジョン、ですよね……。しかも、未調査区域の……」
マルミィの声には、ほんのり震えが混じっていた。
「試験もさることながら、死なないように注意しないとね……」
「そうだな。魔物も罠もリアルだ……。けど──」
アーシスは湯飲みに映る自分の目を見つめた。
「……だからこそ、エピック・リンクの実力の見せ所ってやつだろ!?」
その言葉に、三人が顔を上げる。
「ふん。……ああ、やってやろうじゃない」
「う、うんっ……!」
「合格して、みんなで進級しよう!」
夕日が沈み、空が紫に染まる中──エピック・リンクの四人は拳を軽く合わせた。
その瞳に宿るのは、不安を越える決意と──友情のきらめきだった。
(つづく)




