【78】進級試験編① 〜選別の鐘は鳴る〜
冬休みが明けた冒険者育成学校には、早朝から冷たい風が吹き抜けていた。
雪化粧をした校舎の中、1年A組の教室には、年の始まりとは思えない重苦しい空気が漂っていた。
教壇に立つのは、七三分けメガネのやつれた顔──担任教師パブロフ。
「さて……今日のホームルームは短くいくぞ。みんな知ってると思うが、進級試験まで、あと一週間だ」
ざわっ、と教室が揺れた。
ついに来たか、と言わんばかりの緊張感。
「だがその前に……まず、これまでの授業・課題・模擬戦、全ての累計ポイントがボーダーを下回った生徒は、残念ながら試験を受ける資格がない」
その一言に、空気が凍る。
パブロフは手元の名簿を開きながら、告げた。
「今から、名前を呼ばれた者は……この時点で脱落だ」
順に呼ばれる名前。
沈黙。
うつむく生徒。
肩を震わせる者、涙を流す者もいた。
アーシスはその様子を、拳を強く握りしめながら見つめていた。
隣のシルティも、目を細めて唇を噛んでいる。
「以上だ」
パブロフが名簿を閉じた音が、やけに大きく響いた。
「……アーシス。よかった、名前呼ばれなかった」
アップルが小声で言う。
「……ああ。だけど……」
アーシスは教室の一番後ろ、肩を落としている何人かの生徒たちを見つめたまま、言葉を飲み込む。
するとその中のひとり、剣術が得意だったが、成績に波があったピートが立ち上がった。
「アーシス」
「え?」
「……俺は、ダメだったけどよ。お前たちは、絶対受かれよな」
その声に、別の女子が続いた。
「そうよ、エピック・リンクは……私たちA組の誇りなんだから!」
「絶対、受かって伝説のパーティになれよ!!」
次々と声があがる。脱落した生徒たちが、それでも笑顔でアーシスたちを鼓舞する姿に、教室の空気が変わっていった。
アーシスは歯を食いしばりながら、ぐっと拳を握る。
「……お前ら……!」
目を伏せ、そして顔を上げたときには、いつもの底抜けに明るい声で叫んでいた。
「よっしゃあ!俺たちはお前らの分まで、絶対合格してやる!!」
「うおおおおお!」
アーシスの叫びに、拍手と笑いが起こった。
……しかし。
「……一番やばいのは、アーシスの筆記だけどね……」
アップルがぼそりとつぶやく。
「……ゔっ」
背筋を伸ばしていたアーシスの顔がぐにゃりと崩れた。
こうして、進級試験を前にした一年生の戦いが、静かに幕を開けるのだった。
(つづく)




