【75】アンセスターダンジョン研修編④ 〜最終日!エピック・リンクの快進撃〜
アンセスターダンジョン──その歴史は悠久。
深く、暗く、そして未知なる領域へ。
アーシスたち《エピック・リンク》のパーティは、確かな足取りでその最奥へと挑んでいた。
三日目。
到達階層は5階。
そして今日──研修最終日。
「じゃあ、行こうぜ!ラストスパートだ!」
アーシスの声がダンジョンの石壁に反響する。
仲間たちは頷き、それぞれの武器と杖、そして気持ちを整えていた。
「ボペットさん、準備できました」
アップルが優しく声をかけると、インストラクターのボペット=ヤンクスはビクッと肩を跳ねさせた。
「え、あ、ああ……。ちょ、ちょっとな、腹の調子が……」 青ざめた顔でお腹を押さえる彼。昨日から続くこの反応は、明らかに恐怖によるものだった。
(な、なんなんだこいつら……こっちは罠に一つ引っかかっただけで命がけだったのに……)
ダンジョン6階、7階と進むにつれ、敵は徐々に凶暴さを増していた。
それでも《エピック・リンク》の四人は、まるで研ぎ澄まされた刃のように──
「《氷晶壁》」
マルミィが素早く魔法を発動、横から回り込んできた魔獣の動きを封じる。
「《加速》!」
続けてアップルがアーシスとシルティに支援魔法を重ねる。
「──ありがと!」
シルティがその隙に滑り込むように剣を振り下ろし、封じられた魔獣の心臓を正確に貫いた。
「おりゃああああ!!」
アーシスは残る敵を一閃、地に倒した。
ボペットはすでに座り込んでいた。鼻の奥がツンとして、じわりと涙と鼻水が混じる。
(つ、強すぎる……こんな学生たちがいるなんて……俺が教えることなんて、何もなかったじゃねえか……)
「ボペットさん、大丈夫ですか?」
マルミィがそっと手を差し出す。ボペットはそれを見て、むしろ自分のほうが守られていると確信した。
◇ ◇ ◇
──そして、アーシス達はついに8階層に到達する。
「……これは、すごい景色だな」
アーシスが呟いた。
その階層は他の階とは異なり、天井が高く、半透明の光る鉱石が周囲に浮かんでいた。
中央には、起動していない古代の魔導装置。歴史の重みを感じさせる空間だった。
だが──
「タイムオーバーです」
パブロフの使い魔から、研修終了の合図が魔導板に表示される。
「くっそおおおおお……まだ行けるのにいいいい!!!」 アーシスが悔しそうに地面に座り込む。
「うぅ……あと一層、あと一層だけでも……」
マルミィも膝を抱え、静かに嘆く。
「まあ、ここまで来れれば、悪くないでしょ」
シルティが腕を組み、どこか誇らしげに言った。
「ふふ……みんな、よくがんばったね」
アップルが笑顔を浮かべ、全員を見渡す。
このアンセスターダンジョン研修での《エピック・リンク》の最終到達階層── 8階。これは、冒険者育成学校における歴代最高記録だった。
「……あ、あのな、お前ら……」
ボペットが呟く。声は震えていた。
「なんだかんだで……助かったぜ。……お前ら、すげぇよ……まじで……」
「こちらこそ、ありがとう、ボペットさん」
アーシスが笑って手を差し出す。
ボペットは一瞬、ためらったが── がっしりとその手を握り返した。
そして彼らは地上へと戻る。
「さぁ、帰ろうぜ!」
ボペットは勢いよく歩き出した。
「あ、そこ、落とし穴ありますよ」
「…え?」
「あああぁぁぁぁぁぁ…」
最後の最後で落とし穴を踏み、一人下層に落ちるボペットだった。
(さようなら、ボペットさん。今まで、ありがとう…)
◇ ◇ ◇
ダンジョンを出ると、温かい風が達成感と安堵を運んで来た。
「次は……もっと深くまで行けるよな、絶対」
アーシスが笑った。
「うん!」
マルミィが頷く。
「食料は多めに準備しておけよ」
ぐぅ〜っと鳴るお腹を押さえながらシルティが言った。
「お疲れさまでした、みなさん!」
アップルが締めるように声を張る。
──こうして《エピック・リンク》は、また一歩、強くなった。
それはきっと、終焉の先に続く“物語”の中で確かな礎となるだろう。
(つづく)




