【74】アンセスターダンジョン研修編③ 〜進撃!次なる階層へ〜
──アンセスターダンジョン・3階層。
そこは、今までとは明らかに違う空気が漂っていた。
壁は苔むしてひび割れ、通路は不自然な静けさに包まれている。
どこか、肌にまとわりつくような魔力の重さも感じる。
「ふぅん……ここからが“本番”ってことか」
アーシスは剣を軽く回しながら、周囲を見渡した。
横ではシルティも気を引き締めるように、腰の剣にそっと手を添えている。
「……足元、注意して」
マルミィが小さく呟く。
「ふふん、任せてよ!」
アップルはにんまりと笑い、杖を握り直した。
そんな中、先頭を歩いていたボペット=ヤンクスは、さっそくおろおろしはじめていた。
「お、おい、ここはちょっと危ねぇかもだぞ!床の模様が違う!これ……たぶん、踏んだら落とし穴かもしれねぇ!」
「にゃっふふーん、それなら、僕に任せるにゃ」
にゃんぴんがアーシスの肩からふわりと浮かび上がると、小さな前足で床をペシペシ叩きながら進み始めた。
「ほらにゃ、ここ、ここ踏んだらアウトにゃ」
にゃんぴんが指摘した箇所は、確かに微妙にタイルの色が違っている。
その見事な罠察知に、ボペットは唖然と口を開けた。
「……い、今の、なんだ……?」
「にゃっふっふ。これぞ、にゃんぴんセンサーにゃ」
ドヤ顔(?)を決めるにゃんぴんを、アーシスたちは手慣れた様子で拾い上げる。
すっかり日常の一コマだ。
◇ ◇ ◇
さらに進むと、通路の先に大きな扉があった。
「……たぶん、この先だな。魔物がいるの」
アーシスが前に出る。
そして、ドン、と扉を押し開けた瞬間。
──ズガァァァァァン!!
雷のような音とともに、中から牙と爪を備えた巨大なワーウルフ型モンスターが飛び出してきた!
「うおおおおお!?」
ボペットが尻もちをつき、腰を抜かす。
「こいつ、そこそこ強そうだね」
アップルがバフ魔法を即座に詠唱する。
「援護するっ!」
マルミィが片手に風魔法、もう片手に火魔法を展開する。彼女の成長した魔力操作は、以前とは段違いだった。
「私が前に出る!」
シルティが一歩踏み出し、真正面からワーウルフに剣を突き立てる。
そして──
「よっしゃ、いくぞ!」
アーシスがシルティのサポートに入り、絶妙なタイミングでカバーリング。
二人の連携は見事だった。
シルティの斬撃が敵の注意を引きつけ、その隙をアーシスが的確に突く。
その間、アップルとマルミィが絶え間ないバフと攻撃支援で後押しする。
「ぐぅぅぅぅぅ!!」
ワーウルフが最後の力で突進してくるが──
「にゃっ!」
にゃんぴんが炸裂するような魔力波を放ち、モンスターの体勢を大きく崩す。
その一瞬を見逃さず、アーシスとシルティがクロスカウンターのように斬りつけた。
──ズバンッ!
ワーウルフは地に伏した。
「……はぁ。やった、ね」
アップルが胸をなで下ろし、マルミィも静かに頷いた。
「みんな、ナイス!」
アーシスが振り向き、親指を立てる。
「……す、すごすぎる……」
床にへたりこんでいたボペットは、鼻水をたらしながら呟いた。
「助かった……」
その情けない姿に、にゃんぴんがそっとハンカチを差し出していた…。
◇ ◇ ◇
その後も、順調にダンジョンを進んだエピック・リンク。
罠はにゃんぴんのセンサーで事前察知、強敵も連携で次々撃破。
──彼らは確かに、成長していた。
個々の力だけではない。
互いを信じ、支え、カバーし合う“本物のチーム”になりつつある。
「なぁ、もう今日ここらで切り上げてもいいんじゃねぇか?」
ボペットが震えながら提案する。
「……まぁ、今日はこれくらいにしといてやるか」
アーシスがにやりと笑った。
そんな彼らの背に、ダンジョンの闇が静かに揺れていた。
(つづく)




