【70】温泉リゾート編⑤ 〜疑惑の体験ツアー〜
翌朝。
さわやかな朝日がリゾート旅館を照らす中、生徒たちは荷物をまとめ、ロビーに集まっていた。
「ふぁぁ〜……遊びすぎて体バキバキだぁ……」
アーシスは大きなあくびをしながら、伸びをしている。
「でも、楽しかったね!」
アップルが満面の笑みで言うと、マルミィも小さく頷いた。
「……ほんと、夢みたいな二泊三日だったな……」
シルティも、ぼそりと呟く。
みんな、まだ余韻に浸っていた。
──そんな中。
「さてさて〜!」
陽気な声と共に、担任パブロフが登場する。
「これから最後のイベント、“体験ツアー”をやるぞー!」
「おお〜!」
「やったぁぁ!」
「ヘぇ〜、温泉だけじゃなくて、体験ツアーまでついてるなんて、太っ腹だなぁ!」
期待に胸をふくらませる生徒たち。
もちろん、アーシスたちもテンションが上がっていた。
「何やるんだろな、川遊びとか?」
「温泉ソムリエ体験とか?」
「パフェ作りとか!?」
生徒たちはわくわくしながら馬車に乗り込んだ。
◇ ◇ ◇
着いたのは── 荒れた農地。
「はい、まずはこちら!農家体験ツアー!畑を耕します!」
どーんと広がる畑を前に、パブロフが満面の笑みで叫ぶ。
「え?」
「……畑、耕すの?」
「思ってた体験と違うぅ!!」
生徒たちは騒然。
「く、クワとか持ったことないんだけど!」
「やばい……絶対爪割れる……!」
都会育ちの生徒たちは右往左往。
だが、田舎育ちのアーシスとガイラだけは腕まくりしてノリノリだった。
「ふっ、田舎者舐めんなよ!」
「こっちの勝負なら負けねぇぞ!」
二人は競うように鍬を振るい、畑を耕していく。
シルティとマルミィは最初ぎこちないながらも、だんだん楽しそうに土をいじりはじめる。
「……たまには、こういうのも悪くないな」
「ふふ、土のにおい、落ち着きますね」
◇ ◇ ◇
続いて──
「はい、次はおむすび体験!」
パブロフが用意したのは、見るからに途方もない量の炊きたてごはん。
「いや、多すぎだろ!!」
男子たちは悪戦苦闘するが、料理スキルの高いアップルが大活躍。
「ほら、こうやって手に塩をつけて──ぎゅっと!」
次々にきれいな塩むすびを量産していく。
「アップルちゃん、すごい……!」
「惚れそう……」
「……今さら何言ってんのさ」
アップルはにやりと笑った。
◇ ◇ ◇
そして──
「次はたけのこ掘り体験だよー!」
「まだあるのかよ!!」
「……へへ、たけのこ掘りなら誰にも負けないぜ」
腕をまくるアーシスの後ろから、ただならぬオーラを感じる。
「……ほう、たいした自信だな。」
またも現れたのはガイラだった。
「勝負だ坊主!!」
「の、のぞむところっす!」
バキバキと竹林を掘りまくる二人。周囲の生徒たちが唖然とするほどのハイスピード。
「ぜぇ、ぜぇ……」
「……ひぃ、ひぃ……」
結果は、引き分け。
「……今日のところはこんくらいにしといてやる」
「……うす」
汗まみれになりながらも、二人は拳を合わせた。
◇ ◇ ◇
さらに──
「さぁさぁ!最後はイノッチ狩り体験!」
「モンスター狩りまであるのかよ!!」
裏山に現れるE級モンスター・イノッチの大群。
「坊主、第二ラウンドだ!!」
「のぞむところっす!!」
アーシスとガイラが猛スピードで駆け出し、次々とイノッチを討伐していく。
──そんな中。
「ねぇ、アップルちゃん……なんかおかしくない?」
マルミィがそっと囁く。
「……うん。なんか……体験っていうより、働かされてない……?」
アップルたちとどことなく違和感を感じていた。
◇ ◇ ◇
建物の陰──。
パブロフは、町人らしき男から金貨袋を受け取っていた。
「いや〜、助かりましたよ先生!これで裏山もスッキリです」
「まいどあり〜」
袋を手に、鼻歌を歌うパブロフ、
だが、次の瞬間──
背後に感じた殺気に振り返ると、そこにはアップル、マルミィ、シルティを先頭にした生徒たちの軍団がずらりと並んでいた。
「……センセー?」
「……な、なんだね君たち。ははは」
「これって……バイトじゃないんですかぁぁぁ!!??」
「いやいやいや、これはあくまで体験学習で──ぐふっ」
生徒たちの冷たい視線が突き刺さる。
「ち、違うんだ!
校長だ、校長が、旅行の代金は自分で稼がせろって言うから……
俺だって嫌だったんだよ!(めんどくさいし)。…でもジャンケンで負けちゃったからぁ!!」
パブロフは涙目で叫んだが、生徒たちはしらけ顔でじっと彼を見つめ続けた。
──そんな中、
ドタドタドタッ、と激しい足音を鳴らして二人の男たちが戻って来た。
「「イノッチ討伐完了!」」
「ふん、今回も引き分けか。なかなかやるな坊主、いや……アーシス」
「ガイ先輩も、さすがっす」
大量のイノッチを担いだガイラとアーシスが、お互いを認め合う。
──二人の絆は、知らぬ間に確かに深まっていた。
「……ま、楽しかったから、いっか」
誰かがぼそりと呟いた言葉に、自然と笑いが広がった。
そして──
生徒たちの笑い声が響く夕空の下、パブロフが肩を落としてボソリと呟いた。
「……校長に言われたんだよぉぉぉぉぉぉ……」
最高の温泉旅行は、最高の笑いと、最高の青春を残して──こうして幕を閉じた。
(温泉リゾート編、完)




