【67】温泉リゾート編② 〜いざ、温泉へ!〜
リゾート旅館のフロント前。
生徒たちのわくわくとしたざわめきが、広いロビーに満ちていた。
「これから部屋割りを発表する!」
声高らかに宣言したのは、担任パブロフだ。
「男女別、四人部屋だ。男子部屋と女子部屋に分かれるぞ!」
「…女子と相部屋とかありえないか……ワンチャン……」
「無理に決まってんだろ!」
男子生徒たちが無駄な期待を膨らませ、女子たちは冷たい視線で返す。
そしてパブロフは続けた。
「男子部屋一号!アーシス、キリアスト、グリーピー、ナスケ!」
「……グリーピーと一緒かぁ……うわ、ナスケもか……。ま、いいか」
「アーシス、うるさくすんなよー」
「女子部屋一号!シルティ、マルミィ、アップル、ナナミ!」
「よっしゃー!」
アップルがぴょんと跳ねた。
シルティはふんと鼻を鳴らし、マルミィはほっと胸をなで下ろす。
◇ ◇ ◇
それぞれの部屋へ。
荷物を置き、一息ついた。
「んあぁぁ〜」
アーシスは大きく伸びをした。
「いい旅館だよなぁ〜」
「ほんとだねっ」
キリアストが明るく返す。
「そういや、キリアストとまともに話すのって初めてかもな」
「だね。改めてよろしくね」
「ああ!」
和やかなムードの中。
「アーシス殿!!」
急に声を上げて近づいてきたのは、さっきまで部屋の隅でグリーピーと話していたナスケだった。
「ど、どうしたナスケ?」
「これをご覧くだされ!ぐるぐる饅頭でござる!!」
ナスケは、お着き菓子の饅頭を鼻息荒く見せてきた。
「そ、そうだな……」
「もっとよく見るでござる!ぐ〜るぐる、ぐ〜るぐるでござる!」
「?」
◇ ◇ ◇
「ん……」
(……旅疲れからか、うたたねしちまったな…)
目を覚ましたアーシスは、まわりを見渡した。
「……あれ? 誰もいない」
テーブルには置き手紙があった。
グリーピーの走り書き──「先に温泉いってるぞ!」とある。
(……なんだよ、置いていくなっての)
ちょっとすねながら、アーシスは支度をして温泉へ向かった。
◇ ◇ ◇
豪華な温泉フロア。
高級感あふれる木の扉を前に、アーシスはわくわくしながら立った。
「おぉぉ、すげぇ高級感、中も楽しみだぁ!……よっしゃ、行くか!」
勢いよく男湯の扉を開ける。
ガラッ
──そこには。
なぜか浴衣姿のシルティ、マルミィ、アップル、ナナミがいた。
「……え?」
時が止まった。
「ええええええええええ!!??」
大絶叫!
「お前らなんでこっちいんだよ!!?」
「そ、それはこっちのセリフだよぉぉぉ!!!」
アーシスは大慌てで入口の札を確認する。
だが──
「えっ、“女湯”になってるぅぅぅ!!?」
「札、間違えてたのかよっ!!?」
「逃げろおおおお!!」
アーシスは全速力でUターンをかけた。
だが──
「……逃がすかっ!!」
最速で動いたのは、やはりシルティだった。
ダンッと床を蹴り、風のような速さで追いつくと、
「バカァァァァ!!」
ゴスッ!!
アーシスの頭に、強烈なげんこつが炸裂した。
「ぐふぅっ……」
◇ ◇ ◇
その光景を、廊下の影からニヤニヤ見つめる二人組がいた。
「……ふふふ、催眠魔術が効いたようでござるな」
「くくく、完璧な作戦だったな」
ナスケとグリーピーだ。
そしてグリーピーは満を持してシルティに近づき、声を張り上げた。
「まったく、とんでもない変態だな!!アーシスは!!」
だが──
「あん? 札を見間違えただけだろ」
シルティは特に気にすることもなく、女湯に戻っていった。
「…………」
盛大に肩すかしを食らうグリーピー。
「なんだお前ら、まだ入ってなかったのか?」
アーシスがけろっと言う。
「…お、おう、待っててやったんだ」
「そうでござる!」
「悪かったな、サンキュー!じゃ、みんなで入ろうぜ!」
「……お、おぅ」
結局、わちゃわちゃしながら男子チームも温泉へ。
◇ ◇ ◇
「……あ〜、いい湯だぁ」
「まあ、悪くねぇな」
「……ござる……」
湯船に浸かりながら、ぽつりぽつりと声が漏れる。
疲れもすべて溶けていくような極楽気分だ。
一方そのころ、女子湯では。
「まったく、男子ってほんっとに……」
湯に浸かりながらため息をつくシルティ。
「……でも……ちょっとだけ、楽しかったかも」
マルミィが小さく呟き、アップルも笑いを堪えながらこくりと頷いた。
湯けむりの向こう、少女たちの笑い声が静かに弾ける。
──最高の温泉リゾートの夜は、まだまだ続く。
(つづく)




