【64】体育祭編⑧ 〜最終決戦、そして未来へ〜
──残り時間、あと三分。
フィールド中に響き渡る、緊迫した足音と魔法の炸裂音。
誰もが必死だった。
魔導球は今、各チームが抱える数でほぼ拮抗している。
(ここからが……本当の勝負だ!)
アーシスは、魔導球を二個抱えたまま疾走する。
隣ではシルティが、巨大な剣を振るって敵を牽制している。
「ハァァァァッ!」
「くっ、速い……!」
シルティの剣技は、今や二年生の上級生たちと互角以上に渡り合っていた。
一方、マルミィは後方から援護。
「ウィンドブレイク!スロウフィールド!」
的確な妨害魔法で、敵チームの足を止める。
その魔力制御は、誰もが認めるレベルに達していた。
「す、すごい……あんな繊細な魔法コントロール、どうなってるんだ……」
二年生のバフ担当、ピーピアですら舌を巻く。
そしてアップルは──
「みんな、スピードブースト!回復もかけるよ!」
怒涛のサポートラッシュ!
華奢な身体から溢れるような支援魔法の連打に、仲間たちは加速する。
「アップル、最高だ!」
「えへへ、もっと褒めていいよー!」
だが、勝負の神様は簡単には微笑まない。
「くっ……!」
アーシスの前に立ちはだかったのは──赤魔道士ゼマティス。
冷静な瞳が、レイピアを構えてアーシスを狙う。
「ここで、終わらせる」
鋭い突きが、魔導球を狙って放たれた──!
「させるかぁぁぁっ!!」
アーシスは魔導球を抱えたまま、渾身のステップでかわす!
だが──バランスを崩す!
(しまっ──!)
倒れ込むアーシス。その瞬間──
「アーシスっ!!」
アップルの支援魔法が、彼を包み込んだ!
滑り込むように地面を転がり、なんとか魔導球を死守!
「…ちっ」
「サンキュー、アップル!」
「まだまだいくよっ!!」
そして、最後の魔導球がフィールド中央に現れる。
「!!」
全員の視線が、それに向かう。
たった一つ、最後の魔導球。
それを取った者が、勝つ。
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!!」
アーシスが全速力で駆けた。
敵も味方も──全員が、命を削るようなダッシュを繰り出す。
魔法が飛び交い、足元が砕け、風が叫ぶ。
「そこだぁぁぁぁぁ!!」
アーシスの手が、最後の魔導球に伸びた──!
だが、その瞬間。
「させるかよ!!」
2-B組のキョウスケが横から体当たり!
衝撃でアーシスの身体が吹っ飛ぶ。
(ダメか──!?)
だが。
「バカっ!」
シルティが叫びながら滑り込んできた。
アーシスの腕を掴み──勢いを利用して、投げた!
「──いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」
アーシスの身体は宙を舞い、まるで弾丸のように飛んだ。
──そして。
「取ったぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
アーシスの手が、最後の魔導球を、ガッチリと掴み取った。
──その瞬間、魔導掲示板のカウントダウンの数字が"0"に変わる。
フィールドが、静まった。
次の瞬間、爆発するような歓声!
「やったぁぁぁぁぁ!!」
「すげぇぇぇぇぇぇ!!」
「Aチーム勝ったぞぉぉぉぉぉ!!」
仲間たちが一斉に駆け寄り、アーシスを抱きしめる。
マルミィも、アップルも、シルティも──笑っていた。
「……すごいよ、アーシス!」
「ふふっ、やったねっ!」
「よくやったな」
そして、フィールドの向こうでは、2年生たちが。
「……まいったな」
「今年の一年、マジでやべぇな……」
「……面白ぇ後輩たちが来たもんだ」
先輩たちは、誰もが素直な笑顔を見せていた。
──こうして、熱く、激しく、燃えたぎった最終競技は終了した。
◇ ◇ ◇
そして、1-Aと2-Aの混合Aチームは、
全勝優勝。温泉リゾート宿泊券&休暇獲得。
一際目立ったエピック・リンクのメンバー達。
いつしか、誰もが一目置く存在となっていた。
(つづく)




