【60】体育祭編④ 〜バフ&デバフリレー 加速する風、重くなる地〜
第一種目《巨大風船割り》を制したAチームは、気合い十分で次なる競技へと向かっていた。
続く第二種目は──「バフ&デバフリレー」。
「ルールは簡単だァァ!!」
司会のファラド教官が喉が枯れそうな大声を張り上げる。
「ランナー役とバフ・デバフ係をチーム内で分担するッ!ランナーは走るだけ!魔法係は、バフで味方を加速させるか、デバフで敵を減速させるか、頭使えッ!!」
つまり、どれだけバフ・デバフを上手く使いながらリレーできるかが勝負のカギとなるのだ。
広大なフィールドに作られた特設トラック。そこを、各チームがバトン代わりの魔導球を持って走り抜ける。
「よーし、作戦会議だ!」
Aチームの生徒たちが集まる。
リーダーのガイラが話し始める。
「まず、走る奴は素早い奴がいい。バフの効果を最大限活かすには、素のスピードも重要だ。二年からは俺がランナーで出る!魔法支援はバッファーのピーピアが担当する」
ガイラの後ろで羽帽子を被った細身でオシャレな少年が、"どうも"とばかりにウィンクする。
「一年生!残りのメンバーはお前らで決めろ」
ガイラの気迫に…ビクっと反応した一年生たちは、相談をはじめる。
「ランナーの一人は、アーシスで決まりだね!」
アップルが口火を切った。
「確かに。わたしも認める」とシルティも頷く。
「う、うん……アーシスくんは、足速いもんね……」
「……よっしゃ、全力で走りまくるぜ!」
アーシスは気合い十分な表情を見せる。
「バフ担当は、アップルでいいよな?ヒーラーだけど、支援魔法も得意だろ」
「まっかせてよ!」
「んで、もう一人の走者はシルティだな」
「……シャリ…」
「アップルがピーピア先輩とサポート、マルミィは防御に回って、敵のデバフ魔法を阻止する感じで行こうぜ」
「了解」
「う、うん、がんばる……!」
役割を決めたアーシスたちは、すぐにスタートラインへ向かった。
◇ ◇ ◇
スタートの合図が響く。
最初のランナーはアーシス。
「行くぞォォォォッ!!」
爆発的なダッシュ。
同時に、後方からアップルが叫ぶ。
「《フライトバースト!!》」
風属性の加速魔法がアーシスの背に乗り──アーシスの身体が地を蹴った瞬間、まるで空気を裂くようなスピードを生み出した!
「速いッ!!」
観客席から驚きの声が上がる。
──しかし、Bチームも黙ってはいなかった。
二年生のシナコ=グミが、冷たい氷の魔法をアーシスの足元に発生させた!
「ちっ!」
だが、そこに割り込んだのはマルミィだった。
「……《フレイムブロウ》!」
マルミィが放った小規模の炎魔法が、氷魔法を中和し、アーシスの足を止めさせなかった。
「ナイス、マルミィ!」
アーシスはニヤリと笑いながら、魔導球を次の走者へとバトンパス──
次はガイラ先輩が担当だ。
筋骨隆々の巨体が、加速魔法を受けて疾走する。
その破壊力たるや、もう地響きレベルだった。
ガイラがバトンを渡すと、今度はシルティが前線に立つ。
敵チームからデバフ魔法(重力強制)を放たれるが──
「舐めんなよ」
シルティは剣を構えて一閃。
剣気をまとった斬撃がデバフ魔法ごと叩き斬った。
「な、なんだあの剣士──!?」
「一年生だろ、あれ!?」
周囲がどよめく中、最終走者、アーシスが再びバトンを受け取る!
「行けェェェ、アーシス!!」
「がんばれえええ!!」
アップルとマルミィの応援を背に、アーシスは全力疾走。
最後の直線、Cチームのゼマティスが魔法の槍を放とうと構えたそのとき──
「……にゃふふ」
にゃんぴんが空中からゼマティスの帽子をぴょいっと飛ばし、魔法発動を邪魔する。
「ぬわぁ!?だ、誰だァァァァ!!」
混乱するゼマティスを尻目に、アーシスがゴールラインを突っ切った!
──ピィィィィッ!!
フィールドに、勝利のホイッスルが鳴り響く。
「Aチーム、勝利ィィィィッ!!」
ファラドの叫びと共に、歓声が弾けた。
Aチーム、2連勝。
フィールドで仲間たちとハイタッチを交わしながら、アーシスは空を見上げた。
(よっしゃ……! まだまだいける!)
体育祭は、まだまだ始まったばかりだった──!
(つづく)




