【59】体育祭編③ 〜巨大風船割り 小さな魔導士の大爆発〜
体育祭・第一種目──《巨大風船割り》。
白線で区切られた中央フィールドには、直径二メートルはあろうかという巨大な風船がチームごとに設置されていた。
手段は、魔力注入のみ、より早く、より効率よく魔力を送り込み、風船を爆発させたチームが勝利となる。
司会を務めるファラド教官が、魔声拡声で叫んだ。
「さぁ選手代表は前に出ろォォ!!」
各チームから一名ずつ代表が出るルール。
「さて、誰が行く?」
ガイラがAチームの一年組を見渡したそのときだった。
「マルミィだな」
アーシスが即断した。
「えええええええ!?……わ、わたし!?」
マルミィは思わず立ち上がり、ぷるぷる震えた。
「大丈夫だって。お前、魔力なら誰にも負けねぇじゃん、気楽にいけよ」
アーシスは笑顔で、ぐっと親指を立てる。
「き、気楽にって……そんなぁ……せ、先輩を差し置いて……」
必死に抵抗するマルミィだったが、アーシスが頭をポンっとたたき、「お前しかいないって」と、柔らかな声をかけると、ふっと肩の力が抜けた。
「……わ、わかりました……や、やってみます……!」
顔を真っ赤にしながら、マルミィが小さく頷く。
Aチームの代表は、青髪の小さな魔導士・マルミィに決定した。
隣では、Bチーム代表のシナコ=グミ(二年B組魔法使い)、 Cチーム代表のゼマティス=グレイシス(二年C組赤魔道士)が、それぞれ悠然と立っている。
マルミィはというと、フィールド中央で小さくぷるぷる震えていた。
(ふ、ふぁぁぁぁ……心臓飛び出そう……でも……)
後ろを見ると、アーシス、アップル、シルティたちが笑顔で手を振っていた。
(が、がんばらないと……!)
「競技開始まで、10秒前──!」
カウントダウンが始まる。
マルミィは深呼吸し、震える手を胸元でぎゅっと握る。
「3──」
(できる……できる……)
「2──」
(落ち着いて、魔力を流して……)
「1──」
(……信じてくれてるから──)
「開始ッ!!」
ファラドの号令と同時に、マルミィは両手を前に突き出した。
──ドォンッ!!
次の瞬間。
周囲に、圧倒的な魔力の激しい勢いの流れが広がった。
「っ……な……!?」
シナコとゼマティスが、一瞬目を見開く。
マルミィの小さな両手から放たれる魔力は、凄まじい速度で風船へと流れ込んでいく。
風船はみるみる巨大化し、今にも破裂しそうなほど膨らんでいった。
あまりの速さに、B・Cチームの二年生たちは顔をしかめた。
「……おい、このままじゃやばいぞ…!」
Bチームのリーダー、キョウスケ=ボウイが声を荒げる。
「まずい、妨害魔法だ!!」
Bチームのナーベ、Cチームの黒魔道士テレーナが、
マルミィ目掛けて同時に、妨害魔法を放った。
だがその瞬間──
バッ!
Aチームのガイラ=ジンクス(二年A組ファイター)が、妨害魔法の前に立ちはだかった。
「おっとォ、悪ぃが──後輩には指一本触れさせねぇぞ」
にやりと笑い、巨大な盾を広げて魔法を弾き飛ばす。
「チッ……!」
苦々しい表情を浮かべる敵チームの面々。
その間にも、マルミィの魔力は止まらない。
(がんばれ……あと、少し──!)
その祈りにも似た想いと共に。
巨大風船が──
パンッ!!
青空に、真っ赤な破裂音が轟いた。
「Aチーム、勝利ィィィィィッ!!」
ファラドの声がフィールドに響き渡る!
わずか十数秒、圧倒的な勝利だった。
「す、すげぇ……」
「な、なんだあの魔力量……」
「……おいおい、今年の一年には……とんだバケモンがいるな……」
二年生たちが、こそこそと呟き合う。
マルミィはふらふらになりながら、それでも笑顔でアーシスたちの方へと戻ってきた。
「す、少しだけ……がんばれた、かも……」
「最高だったぞ、マルミィ!」
アーシスは笑いながら親指を立てた。
そしてAチームは、大歓声の中で第一種目を制したのだった──!
(つづく)




