【57】体育祭編① 〜体育祭、開戦前夜〜
昼下がりの教室。
授業終わりの気だるさが漂う中、担任教師パブロフは教壇に立ち、だるそうにメガネを押し上げた。
「……というわけで。今週末、冒険者育成学校恒例の“体育祭”を開催する」
「……はい?」
「……体育祭……?」
ざわつく生徒たち。
机に突っ伏していたグリーピーが顔を上げ、誰にともなくぼそりと呟いた。
「うちの学校って……体育祭とかやるんだな」
「そりゃやるでしょ。学校なんだから」
隣のアップルが当然のように言い返す。
「さて、今年の体育祭は──一年生と二年生合同で行う」
その一言に、教室の空気がぴしりと張り詰めた。
「二年生って……いたんだ」
「いやいるだろ。二年制だぞこの学校」
小声でひそひそと囁き合う声がそこかしこに漏れる。
──確かに、二年生の存在は今までほとんど感じなかった。
「ふ、普段は課外授業とか遠征が多くて、あんまり顔出さないみたいですけど……」
マルミィがそっと補足する。
「ふーん……」
アーシスは興味深そうに頷いたが、正直なところ、体育祭なんて聞いたのは初めてだった。
「チーム分けについてはすでに決定している」
パブロフが黒板にチョークで勢いよく書き出した。
【チーム分け】
・Aチーム=2年A組+1年A組
・Bチーム=2年B組+1年B組
・Cチーム=2年C組+1年C組
「つまり、うちは“2-A”と組むってことか」
アーシスが黒板を見上げながら呟く。
「初めての先輩たちとの合同戦……」
マルミィはそわそわと落ち着かない様子。
「まあまあ、なんとかなるっしょ!」
アップルは能天気に笑った。
「仮にも先輩たちだ。舐めるなよ」
シルティが腕を組んでピシャリと釘を刺す。
そして、パブロフは最後にこう付け加えた。
「なお、今年の体育祭──優勝チームには【温泉リゾート宿泊券】がプレゼントされる。さらに、特別休暇も与えられる」
「な、なにぃぃぃ!?」
「温泉!?リゾート!?休暇!?」
「超豪華じゃん!!」
「ぜったい勝つ!!」
教室中が一気にヒートアップした。中には「すでに水着買っとこうかな」とか言い出す生徒もいる。
もちろん、アーシスたちも例外ではなかった。
「うおおおおおおお!絶対に勝つぞおおおおお!」
「温泉!温泉!」
「……き、気持ちはわかりますけど、落ち着いてくださいぃぃ」
にゃんぴんまで興奮してぐるぐる回っている。
「勝つためには、チームの連携が重要だ」
パブロフはメガネを光らせて静かに言った。
「二年生は一年生より経験も実力もある。
……だが、今年は例年より“面白い一年生”が入っているからな」
そう言って、意味深な視線をアーシスたちに向ける。
(──面白い一年生、か)
アーシスは拳をぎゅっと握った。
「よーし!やるからには勝つぞ!」
「おーっ!」
拳を突き上げる仲間たち。
だがその熱気の裏で──アーシスはふと、まだ見ぬ“二年生たち”のことを思った。
(……二年生って、どんな奴らなんだろうな)
胸の奥に、小さな期待と、不思議なざわめきが芽生えていた。
──体育祭、開幕前夜。世界は、まだ何も知らない。
(つづく)