【52】ネーオダンジョン編⑤ 〜新たな決意〜
ダンジョンの外。
すっかり暗くなった森の中に、魔導灯の灯りが灯っている。
ついさっきまで瀕死の状態だった冒険者育成学校の1年生たちは、ある男を待っていた。
ヴュビビビビ…
ダンジョンの入口が異音を発し空間を歪ませ、そこから一人の剣士が現れた。
──現役最強剣士、DDの帰還だ。
──瞬間、
シルティが色紙を持って詰め寄る。
「DDさんっ、サインください」!
「お、おい、ズルいぞシルティ!」
「私も! お願いします!!」
完全にミーハーモードの生徒たちに囲まれながら、DDは笑顔で応じていた。
「はいはい、みんな落ち着いて。順番にね〜」
◇ ◇ ◇
その輪の外で、アーシスは一人、岩の上で膝を抱えていた。
その背中に、そっと影が差す。
「君は、サインいらないのかい?」
DDの声に、アーシスは顔を上げないまま、静かに答えた。
「……何もできなかった……あなたが来なかったら、みんな死んでた。今まで、何とかやれてたから……勘違いしてた。
俺は…弱い……。
最強になるって……口だけだった。ホント、だせぇ……」
「はははははっ」
いきなり笑い出すDDに、アーシスは驚いて顔を上げる。
「ごめんごめん、笑うとこじゃないのは分かってる。……でも、僕もそうだったんだよ」
DDの視線が遠くを見つめる。
「最強だと勘違いして、無謀に突っ込んで、パーティは壊滅。自分も瀕死。そんな僕を助けてくれた勇者がいてね…… 君と同じだ……」
「弱いのは、悪いことじゃない。
……弱さから逃げるのが、悪いことなんだ」
アーシスの胸に、その言葉が静かに、そして強く届いた。
「君と同じだった僕が、今は"現役最強"と言われている……。
君はどうする?逃げるか、それとも……」
強い眼差しでDDはアーシスを見つめた。
「君がこれからも、“強さ”を求めるなら……僕が剣の稽古をつけてあげてもいいよ」
アーシスが顔を上げる。
その時——
「DDさーん! 写真もお願いしまーす!」
「おっ、はいはい、今行くよ〜!」
軽く手を振って振り返るDD。
その一瞬、ふと空中に浮かぶにゃんぴんと目が合う。
にゃんぴんもまた、静かに、じっとDDを見つめ返す。
──それはまるで、古い友人同士のような、言葉を交わさぬ“対話”だった。
「じゃあね、アーシス。また、いずれ」
群がる生徒たちの中心に消えていくDDの背を、アーシスは静かに見送っていた。
(……逃げない。俺は、進む)
その呟きは、小さくても確かに——新たな一歩を刻む決意だった。
(つづく)