【51】ネーオダンジョン編④ 〜降臨、スピードスター"DD=ブルーブラッド"〜
──バラバラ、と。
斬り裂かれた守護者の巨体が土煙に紛れて崩れ落ちていった。
その余波の中、微かに漂った魔物のマナの残滓が空中を流れ、ふよふよと浮かんでいたにゃんぴんの身体へと静かに吸い込まれていく。
……だが、その異変に気づく者はいなかった。
皆の視線は、ただ一点に釘付けになっていたのだ。
——A級モンスターを一撃で斬り裂いた、剣士の姿に。
紫と青のメッシュが揺れるストレートのロングヘア。鋭くも涼しげな双眸。
名を、D D=ブルーブラッド。
その異名は、“スピードスター”。
「う、うそだろ……」
「現役最強って……あの……!?」
「ほんとに……DDさん……?」
呆然と呟いたのはアップル。
倒れ込んでいたナーベも、息を吐きながら言葉を絞る。
「……スピードスター……S級冒険者の……本物……」
DDは軽く肩をすくめ、気負いのない声で言った。
「やあ、遅れてすまなかったね」
「……なぜ、ここに?」
ダルウィンが、震える声で尋ねた。
「たまたま通りがかったんだよ。街道で走ってる所長に出くわしてさ、事情を聞いて……救助を頼まれたってわけ」
軽い口調。けれど、その身から発される圧倒的な“気配”が、只者ではないと物語っていた。
「全員、無事か?」
DDは腰のポーチから数本のマナポーションを取り出し、器用にアップルとナーベに投げる。
「君らはヒーラーだろ?まずは仲間を回復させてあげて」
「……あ、はいっ!」
アップルは即座に詠唱を開始。
ナーベも静かにうなずき、倒れた仲間たちへと回復魔法をかけていく。
その光に包まれて、仲間たちは一人、また一人と目を開けた。
「……生きてる……?」
「……助かった……のか……」
誰も、死んでいなかった。
奇跡のような事実に、皆が息を詰めた。
DDは静かに剣を鞘へ収めると、ふぅ……と息を吐いた。
「みんな回復したなら、仕上げしちゃおうか」
彼は指をさす。
「転移石を使えば、みんな外へ出られる。石は僕が後で壊すから、君たちは先に出てくれ」
「わかりました…」
アーシスたちは転移石へと向かい、順に光へ包まれて消えていった。
全員が出たのを見届けたDDは、剣を抜き、軽やかに——けれど鋭く振り下ろす。
キィン——と鋭い金属音と共に、転移石は真っ二つに砕けた。
「……さて。残る問題は——」
突如、 DDが叫んだ。
「そこにいるんだろ!!」
洞窟の空気が、ピリッと張りつめる。
……びくっ。
空間が歪み、ゆらりと現れたのは、漆黒のフルプレートを纏った一人の戦士——ダークデンジャーだった。
「……ちっ」
ボイスチェンジャーを通した声が、僅かに舌打ちを含んで響く。
「お前がここにいるってことは……やはり、ギルド本部の差し金か…」
「…………」
「なるほどね。わざと街から上位冒険者を遠ざけ、"にゃんぴん"たちをネーオダンジョンに誘導したってわけか……それで、もし危うくなったらお前が手を貸す算段だったってわけね…、やれやれ、とんだピエロになったもんだ」
DDの目が、鋭く細められる。
「……ギルドが何を隠しているか知らないが、内容によっては僕は敵にもなるぜ」
「……ふん、なんのことやら。私はただ、ここで昼寝していただけだが?」
ダークデンジャーは、わかりやすくとぼけて見せた。
「……あそ」
「それじゃあ僕は帰るから。……また、いずれな」
そう言うとDDは振り返り、背中越しにダークデンジャーに手を振って立ち去った。
(つづく)




