【50】ネーオダンジョン編③ 〜転移石の間と怒りの守護神〜
怒りに満ちた迷宮の奥——
にゃんぴんの鼻が指し示した先には、魔力の流れが濃密に渦巻く空間が広がっていた。
「……たしかに、何かがいる」
ナーベが低く呟き、マントの壺が警戒音のように微かに唸る。
「ここが……転移石の間……?」
アップルが恐る恐る言葉を漏らす。
重々しい空気の中、アーシスは前へと歩を進めた。
広間の中心には、不自然な光を放つ《転移石》——
──そしてその前に、何かが、立っていた。
四つ足の巨体。鋭い爪。黒きマナのオーラを纏い、全身から怒りの波動を発している。
「……モンスター、いたにゃ」
「しかも……やばいやつだ」
ダルウィンがすぐに前へ出る。
「オーラだけでわかる……こいつ、A級以上だ」
唾を飲む面々。だが、引き返す選択肢はなかった。
「俺たちで、やるしかない……!」
アーシスが剣を抜き、魔力を纏わせる。
「いくぞッ!!」
その合図と同時に、仲間たちが一斉に展開した。
「《支援魔法・マナバリア》!」
「《攻撃強化・シャープエッジ》!」
ナーベとアップルの補助が走る。
前衛のアーシス、シルティ、ダルウィンが突撃し、マルミィとプティットが後方から攻撃魔法を重ねていく。
だが——
「ぐっ……!? こいつ、速っ!!」
怒りの守護者は、巨体に似合わぬスピードで迫り、鋭い爪がアーシスをかすめた。
魔法も、オートバリアのような魔力の膜に阻まれ、ダメージを与えられない。
「魔法通らないって……どうすんのよ!?」
プティットが舌打ちする。
「回り込めない……前も後ろも塞がれてる……」
マルミィの顔にも焦りが滲んだ。
──攻防が続く中、一人、また一人と倒れていく。
「くそっ、守りきれない……!」
アーシスの剣が止まる。
シルティが傷つき、ダルウィンとパットが吹き飛ばされ、回復魔法の魔力が尽きたナーベが膝をついた。
そして——
「ぐっ……!」
アーシスの首が、守護者の巨大な爪に掴まれた。
「…くそ……」
絶望の淵。
全てを諦めかけたその瞬間——
「にゃふ……」
にゃんぴんの身体が、淡い光を放った。
「……にゃんぴん……?」
そして——
かつて倒したモンスターのマナ──にゃんぴんが吸収していたその“断片”が、アーシスの身体へと流れ込んだ。
ズキッ——!
「ぐあっ……!!」
心臓が悲鳴を上げ、視界が赤く染まる。
だがそれと同時に、アーシスの魔力が急激に高まっていく。
「目から……血……!?」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
全身にみなぎる力。
「…す、すごい…」
「な、なにが起こってるんだ…!?」
黒紫のマナを纏ったアーシスは、ゆっくりと振り返る。
「いくにゃ!」
にゃんぴんは無詠唱で氷結魔法を放ちアーシスの剣に絡めた。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
アーシスの魔法剣が空間を切り裂く──剣に込めた渾身の一閃が、ついに、守護者の鎧のような魔力膜を切り裂いた——
斬ッ!!
「……効いた!?」
「やったか…!?」
……しかし——
アーシスの首は、再びモンスターの手に掴まれていた。
(くそ…ここまで……か……)
黒紫のマナは散り、
意識が落ちる、その瞬間だった。
——閃光。
突如、何かが走り抜けた。
モンスターの巨体が、音もなくスパッと真っ二つに斬り裂かれた。
「な、なにが……?」
全員が呆然とする中、煙の奥から現れた影。
ロングの髪に、紫と青のメッシュ。
剣を収めるその姿。
「……まさか」
「D D……、ブルーブラッド!?」
「スピードスター……!?」
「おや、僕のこと、知ってるんだ?」
現役最強剣士、S級冒険者が、そこにいた——。
(つづく)




