【46】ダークデンジャー登場
あたたかな陽射しが窓辺に降り注ぐ、いつもの冒険者育成学校の教室。
だが、今日はちょっとだけ雰囲気が違っていた。
視線の中心にいるのは、言わずと知れた“今注目の四人”。 教室中の生徒が、興味津々に彼らをちらちら見ていた。
「ねぇ、見た? アーシスたち」
「全員、同じマークつけてるよ。しかも結構カッコいい……!」
その中心、アーシスは肩にかけたマントの留め具をそっと撫でる。
鋭角な十字に、翼を融合させた銀黒のロゴ——《エピック・リンク》の紋章が、そこに燦然と輝いていた。
「……これが、俺たちの“証”ってやつかな」
仲間たちもそれぞれ、自分の持ち場にロゴをあしらったエンブレムを身につけていた。
アップルは首元のペンダント、マルミィは杖のチャーム、シルティは髪留めピン。 そして、にゃんぴんは額に貼ったおでこのロゴステッカーを、誇らしげに披露していた。
「にゃふ〜〜。今日もエピック日和にゃん〜!」
にゃんぴんののんきな声が響く中、誰もが心のどこかで感じていた。
この四人……いや、“この五体”は、すでにただの学生の域を超えている、と。
◇ ◇ ◇
放課後。
「アーシス、ちょっと頼みがある」
担任のパブロフに呼び止められたアーシスは、やや重そうな封筒を片手に校舎を後にしていた。
(ギルドに書類届けるだけだし、軽いもんだな)
そんな気楽な気分で歩いていたそのとき——
ガシャン、ガシャン、ガシャン……!!!
「ん? なんかすごい音が——」
ズガンッ!!!
問答無用の衝撃。
気づいたときには、アーシスの体が宙を舞い、近くの壁に頭から突っ込んでいた。
「……やっちまったぁ……」
焦ったような低い声と共に、カツンカツンと金属音が近づいてくる。
次の瞬間、がっしりとした手がアーシスの頭を壁から引き抜いた。
目の前にいたのは——
全身を頑丈なフルプレートで覆い、フルフェイスの兜で顔すら見えない“動く要塞”のような人物だった。
「だ、大丈夫か?」
「ん……ああ、まぁ……なんとか」
立ち上がりながらアーシスは相手を見上げた。
……なんだ、この異常なまでの重量感。しかも、鎧がピカピカすぎる。
「君は、冒険者か?」
くぐもった機械声で戦士が尋ねる。
「いや、まだ冒険者じゃないけど……いずれは“最強の冒険者”になるつもりだ!」
「ふーん……つまり、“まだ冒険者じゃない”ってことね?」「うぐっ……言い方ぁ……!」
なぜかドヤ顔で胸を張る鎧の戦士。
「私は冒険者だ! ふふん、すごいだろう!!」
ズズーン!と謎のエフェクト音が脳内に響いた気がした。
(な、なんなんだこいつ……いや、変人か……?)
と、アーシスが距離を取り始めたとき——
「ところで少年、この街のギルドの場所を知らないか?」
「え? ああ、そこの角を曲がってまっすぐ行けば着きますよ」
「かたじけない!!!」
戦士はバッと敬礼のようなポーズを取り、次の瞬間、再び地響きのような金属音と共に猛ダッシュで駆けていった。
ガッシャン、ガッシャン、ガッシャン……!!!
……去り際も完璧にうるさかった。
「……な、なんだったんだ今の……」
──これが、後に“世界ギルド連合の裏の伝令役”として知られることになる謎の戦士、**《ダークデンジャー》**との最初の邂逅であった。
(つづく)




