【43】合同合宿編⑤ 〜アフター・ザ・バトル〜
静まり返った戦場で、生徒たちは互いの顔を見合わせていた。
「……やれやれ、なんとか終わったな」
カレルは腰に手を当てて言った。
「……お前、強かったな」
アーシスはカレルをすでに認めていた。
「……おまえの魔法剣も、正直想像以上だった…。認めざるを得ないな、"感覚"も魔術にとって大切な要素だと」
目を閉じてカレルはふっと笑った。
──最初にカレルに感じた嫌悪感はもはやなくなっていた。
「……ふぅ、」
モモが息を整え顔を上げると、マルミィと目が合った。
——しかしマルミィは一瞬で目を逸らす。
「………」
しばらく黙っていたモモは、何かを決意したような表情でマルミィに話しかける。
「……マルミィ」
「え……、う、うん…」
「昔さ、あの事件のとき、私……自分のせいだって思ってた。 あんたがあんな風になったの、私があの時、ちゃんと守ってやれなかったからだって……」
マルミィの目が見開かれる。
「……だから、ずっと謝りたかった。でも……素直になれなかったんだよ、私は」
モモの金髪が夕日に揺れる。
「私ね、ずっとあんたに追いつきたくて、魔導士になった。あんたの魔力、背中……ずっと、憧れてたんだ…。
……バカね、ほんとに」
マルミィが涙をぽろりとこぼす。
「……でも、私も……謝らなきゃいけないこと、たくさんある」
そう言って、彼女も微笑んだ。
「……今からでも、友達になれるかな?」
「当たり前じゃん」
2人は、そっと手を取り合った。
その瞬間、ふわりと宙に現れる、青い毛玉。
「めでたいにゃ〜〜〜」
にゃんぴんがゆらゆらと降りてくる。
マルミィとモモは目を見合わせて笑い出した。
◇ ◇ ◇
こうして、長く厳しかった合同合宿は幕を閉じた。
だがこの経験は、冒険者育成学校と魔法学校、それぞれの生徒の胸に、深い絆と、確かな成長の証を残すこととなった。
(そして——誰も知らない。にゃんぴんの中に、とあるマナの“断片”が新たに吸収されていたことを……)
◇ ◇ ◇
──光を遮る暗い部屋。
空気はひんやりと冷たく、ほのかに漂う古い書物の香り。
部屋の中央には巨大なクリスタルパネルが浮かんでおり、その中にはつい先ほど終わったばかりの《仮想戦訓練》の映像が映し出されていた。
映像の中、青い毛玉が空中でふわりと輝き、身体に紋章を浮かび上がらせる。
その瞬間を、黒い影の男がじっと見つめていた。
背中に纏う黒いコートの肩口には──《世界ギルド連合》の紋章。
「……はじまったな」
ぽつりと、誰に向けるでもなく男が呟いた。
その時——
コン、コン。
静かにドアがノックされる。
「失礼します」
重く鈍い音を立ててドアが開き、ガシャン、ガシャン……と足元から金属の擦れる音が響く。
──入ってきたのは、一人の戦士。
頑丈なフルプレートの鎧を身に纏い、顔全体を覆うフルフェイスヘルムで表情はわからない。
鋼鉄のような威圧感と、確かな重厚さを持つその姿は、まるで“動く要塞”のようだった。
「お呼びでしょうか」
「……ああ」
黒衣の男は、視線を画面から逸らさないまま返事をした。
モニターには、複数のデータが重ねられている。
そこには《冒険者育成学校 第1年A組:戦闘力数値》、さらに《対象:アーシス・フュールーズ》の情報が浮かび上がっていた。
「…準備を始めろ」
「……はっ」
鎧の戦士が深く頭を下げると、ギィィィと扉が再び閉じられた。
暗がりに残されたのは、男の影と、モニターに映る少年たちの姿だけ。
──動き出す、世界。
誰もまだ知らない。
アーシスたちの旅が、想像を遥かに超えた“終焉の真実”へと繋がっていくことを──
(合同合宿編、完)




