【42】合同合宿編④ 〜乱入、激闘、そして〜
合宿もいよいよ終盤。
最終日は、参加生徒たちによる《仮想戦訓練》が予定されていた。
魔法訓練場の中央には、冒険者育成学校と王立魔法学校の生徒たちが一堂に会していた。
「今日の訓練では、実戦を想定した仮想モンスター戦を行う。このモンスターを魔法だけで倒すように」
教師メガディスが説明し、生徒たちに緊張が走る。
最初の訓練グループの参加メンバーは以下の通り——
⚫︎冒険者育成学校:アーシス、マルミィ、アップル、ナーベ、プティット。
⚫︎王立魔法学校:モモ、カレル、ユーニャ、クラリーネ、ヴィス。
「今日の相手は《仮想モンスター》か」
アーシスが剣の柄に手を置いてつぶやく。
「ええ。訓練とはいえ油断しないでください。魔法で生成された仮想生物は、実戦さながらの強さです」
ナーベが冷静に応じた。
——合宿中、魔導理論や座学では完膚なきまでに叩かれたアーシスたち。
中でも王立のエリート・カレルからの冷笑は、アーシスの心に小さな火を灯していた。
「へぇ、剣士志望が魔法訓練に出るのか? どこまで戦えるか楽しみだよ、フュールーズ」
「……見てろよ。魔法が本職じゃなくても、できることはある」
張りつめた空気の中、訓練が始まろうとしていた。
◇ ◇ ◇
仮想戦場に配置された生徒たちは、班ごとに展開。
アーシスとカレルは同じ前衛班、だが言葉を交わすことはなかった。
「今日の仮想モンスターは、C級程度の強さ。とはいえ油断は禁物だぞ」
教師が念押しする。
そして——
「戦闘、開始!」
その瞬間、地面が震えた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
「……え?」
突如として足元から現れたのは、魔法で生成された仮想体ではない。
──実体を持つB級モンスター《斧獣ガルム》。
全身を鋼の鎧に覆い、両腕に巨大な斧を生やした獣型の魔物だった。
「う、嘘だろ!? 本物!?」
「なんでこんなもんが訓練場に……!」
「結界……反応してない!? 教師が入ってこれない!?」
生徒たちに動揺が走る。
「全員、下がれ!」
剣を構えて前に出たのは、アーシスだった。
「アーシス……っ!」
アップルが叫ぶ。
「俺が引きつける!遠距離から援護頼む!」
モンスターが咆哮し、黒い瘴気を撒き散らす。
「ちょっと!あんた何無茶して……!」
モモラシアンが叫ぶ。その瞬間——
「詠唱完了。炸裂魔法!」
雷の槍が上空からモンスターに突き刺さる。
放ったのは、魔法学校のエリート——カレル=リシェリウスだった。
「……なぜ、援護を」
「君の“無謀”に呆れてはいるが……見捨てるほど冷酷じゃない」
カレルの目がアーシスを正面から見据える。
「今は……共闘するべき時だろう?」
──その瞬間、空気が変わった。
「全員、戦闘陣形に移行!」
ユーニャが指示を出し、補助魔法を仲間にかけていく。
「シールド展開、回復準備もOK!」
「アップル、私と合わせて!」
「うん!」
冒険者育成学校と魔法学校の生徒たちが、初めて心を一つにして動き出す。
◇ ◇ ◇
「カレル! 左から来るぞ!」
「わかっている! 後ろにも気をつけろよ!」
アーシスとカレルは連携しながら斧獣の攻撃を散らしていく。
一方、後衛ではマルミィとユーニャが協力して魔法障壁を構築し、アップルが援護魔法を展開する。
「これじゃ仮想戦じゃなくて実戦じゃんっ!」
アップルが叫ぶ。
「だからと言って逃げる選択肢はありません」
ナーベが静かに詠唱を始める。
「ごちゃごちゃしゃべってる暇はないわよ…!」
モモは後方から補助と妨害魔法を展開する。
◇ ◇ ◇
「……くっ、タフすぎる……!!」
アーシスの剣撃は効いているのに、再生速度が早い斧獣。
「……カレル! 一緒にあの鎧を破るぞ!」
アーシスが叫ぶ。
「了解した!」
二人は同時に斧獣へと突撃。
魔力を帯びた剣と雷の魔法が、敵の装甲にひびを入れる。
「ユーニャ、今だ! 封印魔法!」
「《ロック・アンク》!!」
足元を拘束された斧獣の動きが鈍った。
その時を逃さず、マルミィとモモが同時に詠唱を重ねる。
「魔術式・極雷!!」
「魔術式・封熱!!」
二重魔法が炸裂し、斧獣の装甲を砕く!
「魔力の核が見えた!」
アップルが叫ぶ。
「そこを狙うにゃん!」
——飛び出したにゃんぴんが叫んだ。
「魔術式・雷鎖!!」
カレルは特大の稲妻をアーシスの剣に巻き付けた。
剣に魔力を収束させ、アーシスが渾身の一撃を放つ。
「うおおおおおおおっ!!」
——斧獣、轟音と共に崩壊。
その時だった。
砕け散ったモンスターのマナの残滓が、空中に漂う。
「……!?」
そのマナが、にゃんぴんの身体へと吸い込まれていく。
──すると、にゃんぴんの体表に何かの紋章が光って浮かび上がった。
一瞬、にゃんぴんの身体がふわりと輝いた。
「な、何あれ……!」
「え、にゃんぴん!?」
アーシスが駆け寄ろうとするが、光は一瞬で消え、いつもの小さな姿に戻っていた。
「……にゃふ〜」
にゃんぴんはあくびを一つして、アーシスの肩にちょこんと乗った。
だが——
「……何あれ……」
呆然と見上げていたモモラシアン=エンドゲームの目が見開かれる。
「……見える……のか?……」
アーシスはモモの方を見た。
「…にゃんぴんちゃん…」
マルミィは心配そうに呟く。
「ま、待って……うそ……今、にゃんぴんって……」
同じく目を見開いたままのアップルがゆっくりと近づいてきた。
にゃんぴんの姿は誰からも見えるように変化していた。
「……見えてるの、か!?」
「やっぱり!? 前から感じてた違和感ってそれだったのねええええ!!」
「えぇぇ!? ばれてた!?」
「うるさい! うるさいよアーシス!! なんでこんな大事なこと黙ってたのよぉぉ!!」
混乱するアーシスに、にゃんぴんがポンと肩を叩いた。
「にゃふ〜。ついに見えるようになっちゃったにゃん〜」
(つづく)




