【41】合同合宿編③ 〜マルミィとモモ〜
翌朝。
霧がかった森の中、薄暗い空の下を一行が進んでいた。
「次の訓練は、“滝行”か……」
アップルがメモを確認しながらつぶやく。
「魔力の集中と精神統一を高めるための修行だそうです」
ナーベが隣で頷く。
「滝行って……こう、修行僧がやるやつじゃないのか?」
アーシスが顔をしかめたその瞬間、視界の先に見えたのは——
滝。
大自然の中に堂々とそびえる断崖、その頂からものすごい勢いで水が流れ落ちていた。
「無理無理無理!! 絶対に魔法と関係ないって!!」
アップルが全力で拒否を叫ぶが、すでに魔法学校の生徒たちは滝の下で組んずほぐれつ座禅を組んでいる。
そしてその中心にいたのが、仮面をつけた少女。
金糸の髪を短く切り揃えた整った顔立ち——モモラシアン=エンドゲーム。
その姿を見た瞬間、マルミィの足が止まった。
「……モモちゃん……」
「ようやく来たわね、マルミィ=メルミィ」
仮面を外すと、そこにはかつての親友の顔があった。だが、目は鋭く、口元には薄い笑みが浮かんでいる。
「久しぶりね。あいかわらず、空気が読めなさそうな顔してる」
「……っ!」
「ふん……まぁ、いいわ。せいぜい“がんばって”ね? ここの訓練は、“本物”の魔導士しかついてこれないから」
そう言ってモモは振り返ると、滝の下へと戻っていった。
マルミィは唇を噛みしめていた。両手が小刻みに震えている。
「マルミィ……」
「大丈夫。行こ……」
◇ ◇ ◇
昼、次の訓練——魔力料理対決。
魔法のみで料理を作る訓練だったが、アップルがなぜか異常なまでのテンションで動き回っていた。
「はいっ!こちら“浮遊りんごのカルパッチョ”仕上がりましたー!」
「なにそのメニュー名!?」
「完全に趣味入ってるじゃないですか!」
「魔力と料理は似てるんだよ〜!ほら、マナの火加減が難しくてさ!」
結果、アップルチームの料理は完璧に仕上がり、魔法学校の講師陣から高評価を受けた。
「……やるじゃない、田舎魔導士」
モモがぼそっと呟く。
「ふふん、やっと見直した?」
「勘違いしないことね。私が評価してるのは料理の方よ」
◇ ◇ ◇
その夜。静かなテントの中で、アーシスとマルミィが話していた。
「モモのこと……やっぱり気になってるのか?」
「……うん。でも……あの子、本当はすごく優しい子だったんだ。昔は、いつも一緒で……私の魔法の才能を“本当にすごい”って褒めてくれて……」
「……何があったんだ?」
「昔、街で事件に巻き込まれてね……私、怖くて、魔力を制御できなくて、暴走しちゃって…。多くの人を傷つけちゃったんだ…。
……私を守ろうとしてくれたモモちゃんも、傷つけちゃって……。それから、私……魔法がうまく使えなくなって……」
「……だから、お互いに背中向けるようになったのか」
「……うん。私が逃げたから……」
「でも、今は違うんだろ?」
アーシスは微笑んだ。
「今のお前は……逃げてなんかいない。俺は、そう思うよ」
マルミィの目が、かすかに潤んだ。
「……ありがとう、アーシスくん」
(つづく)