【40】合同合宿編② 〜魔法と剣の閃光〜
合宿初日。
王立魔法学校の広大な演習フィールド。
冒険者育成学校の生徒たちは、普段の訓練場とは桁違いの設備に目を奪われていた。
「な、なんだあれ……リンゴが浮いてる……」
「いや、浮いてるどころか……走ってる!?」
演習場の中央では、細い足場の上にリンゴを魔法で浮遊させながら、バランスを取って走る訓練が行われていた。
「“浮遊制御”と“集中保持”を同時に行う……なるほど、魔法学校らしい訓練だね」
アップルが目を輝かせて言う。
「……私、ああいうの……苦手かもです……」
マルミィは指をもじもじさせながら呟く。
「………シルティがいたら、喜ぶかもな…」
飛び交うリンゴを前に呟いたアーシスの言葉に、マルミィたちの緊張はほどけた。
——だが。
「ふん。愚かな連中だな。魔法という繊細な術を、そんな感覚だけで扱うとは」
冷ややかな声が、アーシスたちの背後から響いた。
振り返ると、そこにいたのはカレル=リシェリウス。王立魔法学校・主席魔導士。
その傍らには、いつものようにふんわりと微笑むユーニャ=リィラの姿もある。
「…誰だよお前……」
アーシスは眉をひそめた。
「王立魔法学校では、魔力の制御は論理と理論によって導かれる。我々は“再現性ある魔法”を使う。
お前たちのような“感覚魔術”など、ただの事故に等しい」
「……事故、ね」
アーシスは静かに前に出ると、右手にそっと魔力を込める。
青い魔力の剣が、空気の中にスッと浮かび上がった。
「じゃあ、ちょっと事故、起こしてみるか?」
その言葉に、周囲がざわつく。
「アーシス……やめとこ? 合宿はじまったばかりだし……」
アップルが困ったように止めようとするが、カレルはすでに杖を構えていた。
「望むところだ。——来い、“剣士魔術師”」
「うぉぉぉっ!!」
「はぁああっ!」
剣と魔術、交錯する閃光。
アーシスの斬撃は魔力の壁を割り、カレルの魔法は足元の地面を凍らせる。
(こいつ、詠唱が速い……!)
お互い一歩も譲らない攻防の中、決定打となる一撃が放たれようとした——その時。
「そこまでだ!!」
怒号と共に雷の閃光が落ち、二人の間を裂いた。
「魔法学校敷地内での実戦は許可されていない! 貴様ら、次やったら減点どころじゃ済まさんぞ!!」
雷を落としたのは、全身真っ黒の法衣を纏った坊主頭の老人。
顔は仏のようだが、目が完全に鬼だった。
「ひ、ひぃ……メガディス先生……」
魔法学校生たちが一斉に背筋を伸ばす。
「……くっ」
アーシスは剣を収め、カレルもそっと杖を下ろした。
「これで終わりじゃないぞ、剣士」
「望むところだ」
睨み合う二人の間に、静かな火花が走った。
◇ ◇ ◇
その日の夜。校舎の裏庭で、アップルとマルミィが静かに話していた。
「……マルミィ、モモのこと……まだ、つらい?」
「……うん。もう、ずっと会ってないし、あの時のまま、止まってる気がする……」
「でも、会えるよ。きっと、また話せる……その時は、素直になれたらいいね」
「……うん、アップル。ありがとう」
ふと夜空を見上げると、肩の上のにゃんぴんが、にゃふ〜と鳴いた。
(つづく)




