表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/186

【39】合同合宿編① 〜ざわつく教室〜


「——合同合宿!?」


 朝の教室に、生徒たちの驚きの声が響き渡った。

 担任のパブロフがメガネの奥でため息をつきつつ、七三の髪を指で押さえる。


「そうだ。来週から一週間、王立魔法学校との合同合宿を行う」

「王立……って、あの!?」

「えっ、なんで私たちが……?」


 ざわつく教室。

「そんなの、今まで聞いたことないぞ…」


「うん、だってはじめてだもん」

 パブロフは話を続ける。


「ここ最近、近隣に発生するモンスターのレベルも上がってるし、駆け出し冒険者を狙った盗賊どもも相変わらずだ。

このままじゃ冒険者になったとたん、お前ら、この世とはおさらばだぞ」


 唾を飲む生徒達。


「お前達の身を案じて校長がこの合同合宿を企画してくれたんだ。(……勝手にな…)」

「俺たち教師も面倒く…フォローするから、お前らも頑張れよ」


「…でも、魔法学校って、レベルが違うんじゃ…」

「あぁ、コケにされて終わるだけじゃ…」


 ざわつく生徒達、その時、机をバンと叩きながら立ち上がる生徒がいた。

 ——グリーピーだ。


「ちょっと待った! 今回の合宿は全員参加なんですか!? パブロフ先生!」

「おぉ、いいところに気づいたな、おパン——じゃなかった、グリーピー」


「今回の合宿相手は魔法学校。つまり、“魔法を専攻している生徒”が対象だ。それ以外のやつは留守番だな」


(……なんだ、俺には関係ないか)

 アーシスは椅子にもたれながら、どこかホッとした様子で呟いた。

(みんながいない間に、打ち込みの回数でも増やしておくか……)


 ——だが、油断したその瞬間。

 パブロフの指がピクリと動き、鋭い目線がアーシスを射抜いた。


「アーシス。お前は参加だ」

「は!? 俺、剣士志望ですよ!?」


「……知ってる。だが今回は“魔法科のチュチュン先生”ご指名だ。断れない」


 チュチュン先生——魔力制御のスペシャリスト。どうやらアーシスの最近の魔力成長に目をつけたらしい。


「……マジかよ……」


 アーシスがぼやいている横で、マルミィはずっと俯いたまま表情を曇らせていた。


(……モモちゃんに、また会うかもしれない)


 アップルはその気配を察して、ちらりと横目でマルミィを見つめる。

「マルミィ……」


 しかし、言葉はかけなかった。ただ、そっと近くに立つ。それが彼女の“やさしさ”だった。



   ◇ ◇ ◇


 その日の放課後。

 生徒たちは配られた合宿要項を手に、それぞれの想いを抱えて校門を出ていく。


「やっほ〜、アーシス!」

 肩に飛びついてきたのはアップルだった。


「……なんか、行きたくなさそうだねぇ?」

「……いや、別に……」

 目を逸らすアーシス。


「でも、頑張ろうね。マルミィのこともあるし……」

「……うん。わかってる」


 そのやりとりを遠巻きに見つめる人物がいた。

 髪を長く伸ばした少年。王立魔法学校の制服に身を包んだ——カレル=リシェリウスである。


「……あれが、例の“魔力を扱う剣士”か。なるほど、確かに珍しい……」


 彼の横では、同じく王立魔法学校の少女——ユーニャ=リィラがふんわりと微笑んだ。


「でも、いい子たちだね。なんだか、見てて……あったかい」

「ふん、そんな曖昧な感情では魔法は扱えないぞ、ユーニャ」


 その視線の先には、にゃんぴんを肩に乗せたまま歩くアーシスの姿があった。


(……“あの生き物”は……)

 カレルはにゃんぴんに気づいた。

 だが、にゃんぴんはアーシスの肩の上で、——にゃふ〜、と笑っただけだった。


(つづく)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ