【39】合同合宿編① 〜ざわつく教室〜
「——合同合宿!?」
朝の教室に、生徒たちの驚きの声が響き渡った。
担任のパブロフがメガネの奥でため息をつきつつ、七三の髪を指で押さえる。
「そうだ。来週から一週間、王立魔法学校との合同合宿を行う」
「王立……って、あの!?」
「えっ、なんで私たちが……?」
ざわつく教室。
「そんなの、今まで聞いたことないぞ…」
「うん、だってはじめてだもん」
パブロフは話を続ける。
「ここ最近、近隣に発生するモンスターのレベルも上がってるし、駆け出し冒険者を狙った盗賊どもも相変わらずだ。
このままじゃ冒険者になったとたん、お前ら、この世とはおさらばだぞ」
唾を飲む生徒達。
「お前達の身を案じて校長がこの合同合宿を企画してくれたんだ。(……勝手にな…)」
「俺たち教師も面倒く…フォローするから、お前らも頑張れよ」
「…でも、魔法学校って、レベルが違うんじゃ…」
「あぁ、コケにされて終わるだけじゃ…」
ざわつく生徒達、その時、机をバンと叩きながら立ち上がる生徒がいた。
——グリーピーだ。
「ちょっと待った! 今回の合宿は全員参加なんですか!? パブロフ先生!」
「おぉ、いいところに気づいたな、おパン——じゃなかった、グリーピー」
「今回の合宿相手は魔法学校。つまり、“魔法を専攻している生徒”が対象だ。それ以外のやつは留守番だな」
(……なんだ、俺には関係ないか)
アーシスは椅子にもたれながら、どこかホッとした様子で呟いた。
(みんながいない間に、打ち込みの回数でも増やしておくか……)
——だが、油断したその瞬間。
パブロフの指がピクリと動き、鋭い目線がアーシスを射抜いた。
「アーシス。お前は参加だ」
「は!? 俺、剣士志望ですよ!?」
「……知ってる。だが今回は“魔法科のチュチュン先生”ご指名だ。断れない」
チュチュン先生——魔力制御のスペシャリスト。どうやらアーシスの最近の魔力成長に目をつけたらしい。
「……マジかよ……」
アーシスがぼやいている横で、マルミィはずっと俯いたまま表情を曇らせていた。
(……モモちゃんに、また会うかもしれない)
アップルはその気配を察して、ちらりと横目でマルミィを見つめる。
「マルミィ……」
しかし、言葉はかけなかった。ただ、そっと近くに立つ。それが彼女の“やさしさ”だった。
◇ ◇ ◇
その日の放課後。
生徒たちは配られた合宿要項を手に、それぞれの想いを抱えて校門を出ていく。
「やっほ〜、アーシス!」
肩に飛びついてきたのはアップルだった。
「……なんか、行きたくなさそうだねぇ?」
「……いや、別に……」
目を逸らすアーシス。
「でも、頑張ろうね。マルミィのこともあるし……」
「……うん。わかってる」
そのやりとりを遠巻きに見つめる人物がいた。
髪を長く伸ばした少年。王立魔法学校の制服に身を包んだ——カレル=リシェリウスである。
「……あれが、例の“魔力を扱う剣士”か。なるほど、確かに珍しい……」
彼の横では、同じく王立魔法学校の少女——ユーニャ=リィラがふんわりと微笑んだ。
「でも、いい子たちだね。なんだか、見てて……あったかい」
「ふん、そんな曖昧な感情では魔法は扱えないぞ、ユーニャ」
その視線の先には、にゃんぴんを肩に乗せたまま歩くアーシスの姿があった。
(……“あの生き物”は……)
カレルはにゃんぴんに気づいた。
だが、にゃんぴんはアーシスの肩の上で、——にゃふ〜、と笑っただけだった。
(つづく)




