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【34】魔導士女子会、スイーツは魔力回復の味


 放課後の女子寮キッチン。


 そこに、ふんふんと鼻歌を歌いながら、軽快にお菓子を並べる少女の姿があった。


「よしっ、完成〜〜!!」


 両手を腰に当ててドヤ顔を決めたのはアップルだった。


「へへ、ミリンダ先生にもらった魔力回復剤を混ぜ込んだからね……これで“魔導士専用スイーツ”の完成だよ!」


 オーブンの上には、きらきら光るゼリー、ほかほかのパイ、小瓶に詰めた魔導スイートクリームなど……ずらりと並ぶ甘味たち。


「……ただ……」

 アップルが口元に指をあてる。


「作りすぎたっ!!」


 眼前のスイーツは、どう見ても8〜10人前。

 そう、彼女は8人兄弟の長女。料理をする時は、どうしても分量が多くなってしまうのだ。


「う〜ん……明日、マルミィと食べよっかな〜……あっ、そうだ!」


 ピンと指を鳴らすアップル。


「……あの二人も、誘っちゃお〜〜!!」



   ◇ ◇ ◇


 翌日、昼休みの校庭。

 芝生の上に置かれた丸テーブルには、4人の魔導士の少女たちが集まっていた。


「……なんで私が、こんな中に入らなきゃいけないのよ……」


 憮然とした表情でパイを見つめるのは、紫髪の天才魔術師・プティット。


 その横で、壺を抱えたナーベが、静かに息をつく。

「……“優秀魔導士女子会”という名目だそうです」


「ま、マルミィは……呼ばれて嬉しい、です……」


 マルミィがそっと微笑む。

 そして全体の空気をポジティブに染めているのは、当然アップルである。


「ふふん。名付けて、“一年生魔導士女子会・スイーツ祭り!” だよ!」


 机の上に魔導スイーツが並べられる。


「すごっ……これ、全部アップルさんが?」

「そーだよ! ミリンダ先生特製の魔力回復剤をちょこっとだけ混ぜ込んであるの!」

「……なるほど。見た目は可愛いけど、機能性重視……好みね」


「それでは、私は紅茶を」

 ナーベが壺を開けると、中から湯気の立つティーポットが魔法でせり出してきた。


「ふん、じゃあ私は……カップくらい用意してあげるわよ」

 プティットは、遠方からカップを複数、ふわりと浮かせて運んでくる。


「いただきまーす!」

 4人の声がそろった瞬間——


「「「「……おいしい!!」」」」


「やるじゃない、あなた」

「でしょでしょ〜!」

「……こんなにおいしいなら、もっと早く呼ばれてもよかった……」

「し、しあわせです〜〜……」


 甘味と魔力の相乗効果で、女子たちはしばし至福のひとときを味わった。


 そして、話題は自然と“とある少年”に向かっていった。


「……ところで、アーシスくんってさ」

「き、きたっ……!」

「……優しいよね。誰に対しても、ちゃんとまっすぐ」

「こ、声が……かっこいいし、です……」

「わかる〜〜! あと、さりげない気配り力が高い!」

「あとたまに見せる“天然”なところがずるいのよね。無自覚だから余計に……」

「……私は、目。好き。真っ直ぐな目をしてる」


 甘味以上に甘ったるくなる会話に、なぜか誰もツッコまなかった。



   ◇ ◇ ◇


 その様子を——

 遠く離れた校舎の2階の窓から、じっと見つめている影があった。

 風に揺れる長髪。鋭く睨むような視線。

 その男は、言葉を発することなく、その場を静かに去っていった。


 ——彼が何者なのか、彼が何を想って彼女たちを見ていたのかは…… まだ、誰も知らない。


(つづく)



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