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【33】ヴァード隊のお仕事


 晴れた昼下がり。


 冒険者育成学校の街道から続く石畳を、アーシスはのんびり歩いていた。


「……リュックの紐、直すの忘れたな。どっかで道具屋寄るか」


 そんなことを考えていたその時、背後から威圧的な声が飛んできた。


「おい、アーシス」


 ピシッと背筋が伸びるような声。


「……あ、マァリーさん。……まだこの街にいたんですね。……そろそろ都に戻っては…」


 口にした瞬間、彼女が鋭く睨んだ。

「断る!!」


「……ですよねぇ。じゃあ、ずっとこの街にいてくださいね?」

「断る! ……はっ、ぐぬぅ……!」

「こ、断るの断る!!」


 会話にならないやりとりに、周囲の通行人がこっそり視線を逸らしていった。



「こんな所で何をしてるんですか?」

「うむ、猫を探している」

「……猫?」


 マァリーは真剣な表情でうなずいた。


「リット!」

「はーいはーい」


 背後から現れたのは、副隊長のリットだった。

 見慣れた軽い笑顔のまま、懐から紙を取り出す。


「やあ、アーシスくん。実はね、街の女の子が飼ってる猫が行方不明になってしまって。見た目はこんな感じなんだけど……心当たり、ない?」


 紙には、丸っこく描かれた白黒の猫の絵があった。


「いやぁ、心当たりないっすね……それにしても、ヴァード隊って、猫探しなんかもするんすね?」


 するとリットはアーシスのそばに寄って、小声で囁いた。

「ん〜……普通はしないんだけどね。あの人、意外とやさしいから」


 ——ゴンッ!!


 唐突に、リットの頭にマァリーのゲンコツが落ちた。

「なぜ!?」


「アーシス、暇ならお前も手伝え」

「え、俺も?」

「うむ。お前からは猫のオーラを感じるからな」


 にゃんぴんのことは見えていないはずなのに、するどい勘。にゃんぴんはアーシスの肩の上で「にゃふ〜」と無邪気に鳴いていた。


「……わかったよ」



   ◇ ◇ ◇


 街の路地裏、屋根の上、路面市場の下まで、アーシス・マァリー・リットの三人(と一匹)は、手分けして猫を捜索していった。


「にゃんぴん、ちょっと猫の気配、探してくれないか?」

「にゃふっ!」


 ふわふわと浮いたにゃんぴんが空気の流れを嗅ぐように鼻をひくつかせ、ピコピコと方向を指差す。


「……あっちだな。行ってみるか」


 そしてたどり着いたのは——校舎裏の木陰。


「……いた」


 そこには、探していた猫がのんびりと寝そべっており、その隣には、満面の笑顔でスープ皿を差し出している少女がいた。


「ほ〜ら、たくさんお食べ〜。今日もいい子ね〜〜」


「アップル!?」

「うにゃ!?」


 驚いて同時に振り返る二匹(?)の存在。


「……あのね、アップル。首輪ついてる猫は、勝手に餌付けしちゃダメなんだぞ?」

「えっ……、そうだったのぉ? ご、ごめんなさぁ〜い……しょぼん……」


 ぷしゅぅ、と肩を落とすアップル。



「……お手柄だったな、アーシス」

「ま、俺一人の力じゃないっすけどね」

「うん?」


「それより、お駄賃かなにか……」

「断る!!」


 即答。


 そしてマァリーは、さっさと後ろを向いて歩き出した。

「次の任務に向かう。ではな!」


 風のように去っていくマァリー。その後ろ姿を見ながら、リットがぽつりと呟いた。


「ね、やっぱりやさしいでしょ?」

「……うん。なんだかんだ、ね」


 にゃんぴんがアーシスの肩に着地して、しっぽをぴこぴこ振る。


(……にゃふ〜。やれやれにゃ)


 今日もまた、静かで騒がしい日常が、ひとつ流れていった。


(つづく)



爺「………へっくしょい!!」

 「……アーシスが噂したかのう?……まぁそれより、ブックマーク頼むぞい」

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