【31】アップルはお姉ちゃん
とある昼休み、冒険者育成学校の校門前。
「ねぇねぇ、ここってアップルお姉ちゃんが通ってるとこだよね?」
「うん! 地図によると、ここだよ!」
「俺、お姉ちゃんに新しい魔導書見せたかったんだ〜!」
「よーし、じゃあ潜入開始だ〜!!」
——その日、冒険者育成学校に5人の子どもたちが突入した。
「……え? 」
教室のドアを開けたアップルが目を丸くする。
そこには見慣れないちびっ子たちが5人、縦一列に並んでいた。
「お姉ちゃーん!!」
「ひさしぶりー!!」
「ちょ、ちょっと待って、え、みんないつ来たの!?」
「今朝〜! 手紙出したもんね!」
「……出してないよ!? 私、知らないもん!!」
「わー、こっちは剣のお兄ちゃんだ! かっこいいー!!」
「おねーちゃんのクラスメイト? お嫁さんになるの?」
「お、おいおい、ちょっと待て!」
アーシスがタジタジになる横で、
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、この人は〜?」
弟その1が椅子の上に立ち、シルティの頭をぽんぽんしている。
シルティは無言でこどもが感じたことのない圧を放った。
「ふぇぇ……」
シルティの圧で泣きそうになる弟その1を、すかさずアップルが抱きしめた。
「ごめんねシルティ、弟たち、今日だけ学校にいさせてっ。
ね? マナーは守るよね?」
「「「「「はぁーい!」」」」」
「……それにしてもすごいですね、弟さん5人って」
「うん……」
アップルは疲れ切った笑顔で答えた。
「下は1歳から上は11歳まで。みんな元気でしょ? うち、8人兄弟なの……」
「多ッ!」
アーシスたちのツッコミが揃う。
◇ ◇ ◇
その後、弟たちは学校の施設内を爆走し、訓練場の魔法装置をいじり、シルティの剣を勝手に振ろうとしてマルミィに雷で感電され——
学園はちょっとした騒動に包まれた。
だが、そんな中でもアップルはしっかりと全員の名前を呼び、抱きしめて、叱って、フォローしていた。
「だめだよ。マナーは守るって、約束したでしょ」
「……うん、ごめんなさい……」
「ふふ、えらいえらい。じゃあお詫びに、これ手伝ってくれる?」
次第に落ち着いていく弟たち。その姿を見て、アーシスたちは自然と笑顔になっていた。
◇ ◇ ◇
夕方。
「お姉ちゃん、ありがとー! また来るねー!」
「ちゃんと手紙出してからねー!!」
去っていく弟たちを見送るアップルの背中は、ほんの少しだけ大人びて見えた。
「……なんか、意外だったな」
アーシスがぼそっと呟く。
「何が?」
「アップルがあんなに“お姉ちゃん”してたこと」
「ふふん、当然でしょ! 私、お姉ちゃんだもん!」
自信満々に笑うアップルの顔に、いつもと違う“頼もしさ”が宿っていた。
「……ま、いい子だよな、ほんと」
シルティが微笑みながらつぶやく。
「はいっ!」
マルミィがうなずく。
(……にゃふ〜。今日も騒がしい。でも、これが“日常”ってやつかにゃ)
空から弟たちを見送る小さな青い影が、ふわふわと浮かんでいた。
(つづく)
にゃんぴん「ポリポリ…。にゃふ〜ん、煮干しは美味しいにゃ〜」
「煮干しの評価は★★★★★にゃ。みんなも小説の評価よろしくにゃ〜」