【29】クラス対抗戦⑧ 〜祝福の中で、静かに動く影〜
光を遮る暗い部屋。
モニターに浮かぶのは、つい先ほど終わったばかりの《クラス対抗戦・決勝戦》の映像。
そのモニターを、黒い影が静かに見つめていた。
背後から差し込む逆光で、男の顔は判別できない。ただ、背中に纏うコートには、世界ギルド連合の紋章が微かに浮かび上がっていた。
「……ずいぶん、成長したな…」
ぽつりと、呟く。
そして、男はゆっくりと笑みを浮かべた。
男の指先が、次の映像ファイルへとスライドさせた時、画面に映っていたのは——
若い4人の冒険者パーティの集合写真。
中央には、幼いアーシスと、彼に手を伸ばす金髪の男の姿があった。
──まだ誰も知らない。この場所が、世界の影を動かす“起点”であることを。
◇ ◇ ◇
「では、第3回クラス対抗戦の全日程を終了します!」
冒険者育成学校の大講堂に、司会の教師の声が響き渡る。
広い会場、1年生全生徒が立ち並ぶ中、最前列にはそれぞれの決勝進出者たち——A組とB組のメンバーが整列していた。
壇上に立ったのは、ガンドール校長。
豊かな白髪と鋭い目元を持つ彼は、重々しい口調で口を開いた。
「まずは、全員に称賛を。特に……この対抗戦で最大の成長を遂げたクラスに、特別加点を与える」
校長が杖を掲げると、A組の得点欄に魔力が注がれ、数字が一気に跳ね上がる。
「A組、決勝戦にて勝利。戦略、連携、個人技……すべてにおいて高評価。見事であった」
会場に拍手が広がる。A組の生徒たちは歓声を上げ、アーシスたちに駆け寄った。
「やったなアーシス!!」
「次に、個人最優秀賞——MVPの発表だ」
張り詰めた空気の中、校長が静かに名を告げる。
「──1年A組、アーシス・フュールーズ!」
場内に大きな拍手。視線が一斉に彼へと注がれる。
「……えっ、俺……!?」
驚くアーシス。
だがすぐに、横に並ぶ三人を見て、にやりと笑った。
「でも……俺一人じゃ、絶対にここまで来られなかった」
照れくさそうに言いながら、アーシスは続けた。
「シルティ、マルミィ、アップル。ありがとう。これは、みんなのMVPだ」
「……バーカ。泣くぞそんなこと言われたら」
シルティが唇を尖らせてそっぽを向く。
「うぅ、嬉しいですぅ……」
マルミィは目をうるませている。
「じゃあさ、こうしようか」
アップルが掲げられた表彰金の目録を見て、にやりと笑う。
「賞金は山分け、今日はアーシスの奢りでステーキ!」
「やったぁ!」
マルミィは両手を挙げる。
「ちょ、……まぁいっか」
アーシスもまんざらではなかった。
その後ろでにんまりと口元を緩ませたシルティが目を閉じて呟いだ。
「まぁ、悪くない選択だな。……肉は赤身で頼む」
「お前、絶対一番食うやつだろ…」
◇ ◇ ◇
観客席の端で、ガンドール校長と、A組担任・パブロフがアーシス達を見つめていた。
「……あの子たちなら、やってくれるかもしれんな」
白髪の校長が遠くを見つめながら、静かに言う。
「どうでしょう……。でも、僕は好きですね、あいつらのまっすぐな瞳」
パブロフの声は、どこか誇らしげだった。
「ふむ。ならば、次の試練を用意せねばな」
「え……また仕事増えるじゃないですか、勘弁してくださいよ……」
「ふはは、A組は君に任せたぞ、元・S級冒険者くん」
「その称号は捨てたって言ってるのに……」
やれやれ、と呟きながらも、パブロフの目は確かにあの4人を見つめていた。
(クラス対抗戦、完)
ガンドール「ワシが冒険者育成学校校長、ガンドールである!!」
「評価、よろしく頼むぞ」




