【28】クラス対抗戦⑦ 〜正面衝突〜
朝霧が仮想戦場を包んでいた。
鳥の鳴き声すらない、静謐な空間。
その中央に、四人ずつの生徒が向かい合って立っている。
アーシス、シルティ、マルミィ、アップル。
ダルウィン、ナーベ、そしてB組の仲間たち。
「さあ、ついに決勝戦!注目の剣士対決はもちろん、1年生最高峰の支援魔法対決にもご注目ください!」
教師の実況が、上空の魔導スピーカーから響く。
(……これで、終わりだ)
アーシスは剣を抜いた。
その隣で、シルティも静かに構える。
マルミィは魔術式を展開している。
「みんにゃ、がんばるにゃ」
にゃんぴんの声はかすかな風音となり、後方のアップルの耳を通り抜けた。
「試合、開始!!」
瞬間、アーシスとダルウィンが同時に走り出す。
「いっけぇええええ!!」
「来い、アーシス!!」
金髪と黒髪、二つの光が交錯する。 刃がぶつかり合い、剣戟が風を裂く。
「やっぱり、速いな! だが、俺の方が——!」
「甘い!」
アーシスが回転しながら斬り上げる!だが、ダルウィンも下から蹴りを入れてバランスを崩させる!
「くっ、上手い……!」
「そっちもな!」
一方──
後衛では魔力の戦いが始まっていた。
「治癒魔法展開」
ナーベが仲間たちに継続回復をかけつつ、壺から補助魔法を展開していく。
「くっ……あの壺、やっぱり厄介ですね」
「任せて、マルミィ!」
アップルが魔法陣を連続展開。
転送型の魔弾が、ナーベの壺に狙いを定める。
「当たれっ……!」
ドンッ!
命中——かと思われた瞬間、ナーベが壺を抱えてステップを踏む。魔力障壁でダメージを防ぎきった。
「うわ……守った!?」
「……この子、大事なんで」
微笑むナーベの背後で、壺が低くうなった。
「はああっ!」
シルティが前に出て、B組の盾役を蹴散らす!
「アップル、援護!」
「オッケー!」
光が走る。マルミィの雷撃魔法が敵陣をかすめ、隙間が生まれる。そこへアーシスが突っ込む!
「……ここだああ!!」
「よっしゃ、来い!!」
ダルウィンとアーシス、再び正面衝突。火花と衝撃が空気を震わせ、仮想戦場の空間がきしむ。
観客席は静まり返り、息を呑む。
「……剣士同士って、あんな動きすんのかよ……」
「レベルが違う……」
「どこまで、ついていけるかな……」
そして──数分後。
両者、満身創痍。
剣の重さ、息の乱れ、魔力の枯渇。
それでも、二人は前に出た。
(ここだああ!!)
アーシスが突っ込み、ダルウィンと再び正面衝突。火花が散り、衝撃が空気を震わせる。
観客席が静まり返り、誰もが息をのんだその瞬間——
ナーベが、そっと一歩前に出た。
「……ダルウィン、まだ足りていない。最後の一撃に、“癒し”を」
壺に手をかけ、詠唱を開始しようとする。
「させない!」
マルミィの魔力が炸裂する!
「魔術式・零距離雷撃、発動!」
バチィンッ!!
地面を這う雷撃が、ナーベの足元を抉るように走った。だがナーベは表情ひとつ変えず、横に跳んで魔力を維持する。
「……妨害、ですか。残念です」
「ここを通したら……アーシスくんが負けるかもしれない!」
ナーベの目がわずかに揺れる。
そこへ、もう一人の声が飛んだ。
「補助魔法同士の戦い、だね」
アップルが杖を構えて、笑った。
彼女の周囲に、光の紋章が連続で出現する。補助術式の同時展開。
「……あなた、“二重術式”を……!?」
ナーベが警戒して詠唱を止める。
「リジェネ妨害、妨害妨害、そして妨害!」
アップルがまるで楽しげに魔法を撃ち込む!
「これが、私の“回復職なりの戦い方”だよっ!」
「くっ……!」
ナーベは魔力の収束を一時中断。壺を抱えて距離を取るしかなかった。
「ナイス、アップルちゃん!」
マルミィが叫ぶ。
「うんっ、アーシスの邪魔はさせない!」
二人の少女が、**仲間の一騎打ちのために“支援を捨てて戦場に立った”**その姿が、静かに観客の胸を打つ。
そして──
満身創痍の二人が、最後に剣を振り上げる。
(この一撃で、終わらせる!)
「これで——最後だ!!」
ダルウィンが叫び、剣を振り下ろす!
「こっちも——本気だ!!」
アーシスが斬り上げる!
バシュウウウッッ!!!
──大きな衝撃波と共に、両者が弾き飛ばされた。
砂煙の中、静寂が訪れる。
……そして、一歩。
音を立てて立ち上がったのは──
「……立ってる……のは……」
「アーシス……!!」
アーシスは剣を支えに、なおも立ち続けていた。
反対側。ダルウィンは膝をついて、目を閉じる。
「……負けたよ、アーシス。最高だった」
──その言葉と同時に、上空に勝利の光が咲く。
「勝者——1年A組!!」
観客席が割れんばかりの歓声に包まれた。
地面に片膝をついたアーシスの肩に、にゃんぴんがぽふ、と乗る。
「にゃふ〜」
「……ありがと、にゃんぴん」
その隣で、シルティが手を差し伸べる。
「お前が立ったから、勝てたんだよ。……お疲れ、リーダー」
「へへ……おぅ」
アップルとマルミィも駆け寄ってきて、パーティ全員がひとつの円になる。
(これが、俺たちの物語の始まり…)
アーシスの胸の奥で、何かが静かに灯った。
(つづく)
アーシス「は〜あぁ、疲れたぁ。でも、楽しかったなぁ」
「あ、ブックマークよろしく!」