【27】クラス対抗戦⑥ 〜それぞれの決意〜
◆ その夜、A組・男子寮
寮の屋上には風が吹いていた。
星空の下で、アーシスは一人、剣を握ったまま黙って空を見上げている。
「……決勝か」
思わず口に出したその言葉は、どこか実感がなかった。
勝ち進んだというより、ただ“流されてきた”感覚すらあった。
霧の森、魔法陣、仲間の声、プティットの執念……。
(あいつらの分まで、俺たちが背負っていくんだな)
「にゃふ〜」
肩に乗ったにゃんぴんが、ぺたんと体を押しつけてくる。
「……にゃんぴん。お前もわかってんだろ? 次はあいつだ、ダルウィン。強ぇぞ、あいつは」
にゃんぴんは黙って、ただアーシスの髪をぐいっと掴んだ。
「……あーもー、わかったよ。勝つよ。勝てばいいんだろ?」
その時——
「見つけた」
屋上の入り口に立っていたのは、シルティだった。制服のまま、髪が少し乱れている。
「……何だよ、お前も星を見に?」
「バーカ。私は星には興味はない。
…こんなとこにいたら風邪ひくぞ。お前が倒れたら、私の出番が増えて困るだろ」
「ははっ……悪いな、頼りにしてるよ」
「言われなくても活躍するし」
そう言って、シルティは隣に座った。
「なぁ、アーシス」
「ん?」
「お前は、何のために剣、握ってるんだ?」
その問いに、アーシスは一瞬言葉を失った。
「……昔は、“強くなるため”だった。でも今は……」
小さく息をつき、夜空を見上げる。
「“守るため”かな。仲間とか、大事なものとか……あと、そういうの全部を、俺が背負えたらって、思う」
シルティは何も言わず、しばらく黙っていた。
「……それ、ちょっとズルいな」
「え?」
「…なんでもない」
そう言って立ち上がると、背中を向けて手を振った。
「……負けないからな、アーシス」
「おう、こっちこそ」
◆ 同時刻、B組・男子寮
「ふぅ〜……やっぱり試合の後の風呂は最高だな〜〜」
ダルウィンは頭にタオルをのせたまま、脱衣所のベンチに腰かけていた。
その向かいにはナーベ。いつものフードではなく、髪を下ろし、タオルで頭を拭いていた。
「明日ですね。アーシスたちとの決勝戦」
「……ああ。楽しみだよ。あいつ、ほんとに剣がうまい。俺と同じ匂いがする」
「正義の匂い、ですか?」
ダルウィンは苦笑した。
「違う。……“誰かを守りたい”っていう、あの真っ直ぐさ。たまに危なっかしいけど、だからこそぶつかりたくなる」
ナーベは少しだけ微笑んだ。
「……私は、正直に言えばアーシスたちの方が好きです」
「おい、味方だろお前……!」
「ええ。でも……一番“綺麗”な戦いをするのは、あなたです。だから、私はあなたを支えます」
「……ありがとな、ナーベ」
彼女は立ち上がり、壺を手にする。
「明日は、たぶん“未来”を決める戦いになります。だからこそ、全力で」
「ああ。約束だ」
拳と拳が、静かに打ち合わされた。
次章、いよいよクライマックス。
◆ クラス対抗戦《決勝戦》——A組 vs B組
運命の一戦が、始まる。
(つづく)
ナーベ「………壺が、ブックマークして、と言っている…」