【25】クラス対抗戦④ 〜霧中の戦場〜
「——くっ!」
アーシスの剣がパットの斜めからの突きを受け止めた。
力ではなく、速さと精密さ。パットの剣は静かに、だが鋭く牙をむく。
「……剣、ちゃんと使えるんだな」
「お前もな。剣士ってのは、無駄に吠えないのがいい」
ガキィン!
剣戟が続く中、アップルは後方で索敵魔法を展開していた。
「……霧が、また濃くなってきてる……。マルミィ、右に2歩下がって!」
「はいっ!」
風魔術を重ねて視界を広げるアップル。その目の端には、霧の中をぷかぷかと浮かぶ青い光の球体——。
「……え?」
思わず目をこする。
「……? 今、青い光……?」
けれど、何度見てもその姿は見えない。
(また……だ)
以前にもあった。
アーシスの周囲にだけ漂う、小さな何か。誰も気づかず、本人すら普通に接しているそれを、アップルは“見ることができなかった”。
(気のせい……? それとも、アーシスにだけ見える、なにか……?)
疑問を胸に押し込め、アップルは再び魔力集中を高めた。
一方、仮想戦場の中央。
吹き飛ばされたシルティが、木の幹を支えに立ち上がる。
焦げた服。泥のついた頬。けれど、その眼には炎が宿っていた。
「このままじゃ、アーシスに借りっぱなしだろ……」
シルティは再び剣を握る。
そこへ、マルミィが駆けつける。
「シルティさん、大丈夫ですか!? 治癒魔法を……」
「いい。私に使うより、前に進む魔法を残しとけ」
短く言って、シルティは前へと歩き出した。
マルミィは数秒黙り——そして、彼女の背中に向かって言った。
「……私、後ろから援護しますね」
「頼む!」
戦場の中心では、プティットが狂気じみた笑みで詠唱を続けていた。
「ほら、どこ見てるの? ちゃんと見てなさい……これが“私の魔術”よ!」
多重魔法陣が地面に浮かび、紫の光が森を焼こうと広がっていく。
「やばい……このままじゃ!」
アップルが叫ぶ。
「シルティ! 今だよ!!」
風を裂く音がした。
「うぉおおおお!!」
駆け抜けたのは、灰色の制服に土をまとう剣士——シルティ。
ズシャッ!
彼女の剣が魔術式を切り裂き、プティットの詠唱が中断された。
「なっ……術式が……!」
術陣が崩壊し、爆ぜる光。
プティットは吹き飛ばされ、よろめいて座り込む。
「……やった、か……」
アーシスの口元がゆるむ。
そこへ、パットが彼女のもとへ駆け寄る。
「プティ……もういい、無理すんな……!」
「…………っ」
紫髪の魔術師は唇を噛みながら、拳を握り締めた。
「……負けたの、ね。私……また、負けた……」
「……いや。俺は、勝ったと思ってるぜ?」
パットの笑顔に、プティットは目を丸くする。
その後ろから、アーシスの声が響いた。
「……お前ら、次は正面から来いよ」
「……考えとく」
淡々と返しながらも、プティットの頬はほんのわずかに赤みを帯びていた。
──勝敗を告げる鐘の音が鳴る。
「勝者、1年A組!!」
観客席からは歓声と拍手がわき上がる。
アーシスの肩に、ふにゃっと何かが着地した。
「にゃふぅ〜ん」
「おつかれ、にゃんぴん。今日も助かったな」
にゃんぴんはアーシスの髪の中に潜り込み、ふわふわと丸くなる。
そこへ、アップルが駆け寄ってきた。
「アーシス! 勝ったね! あのさ、さっき変な気配があったんだけど……君の近くに、なにかいる?」
「えっ?」
アーシスは一瞬、目を見開き——にゃんぴんをちらりと見る。
(やっぱり、アップルには見えてないんだな)
「いや……何もいないよ」
「そう? なんか、あったかい風が吹いた気がしたんだけど……」
「気のせいじゃね?」
「うーん……ならいいけど。…じゃあ、パフェ食べに行こう!」
「おい、戦闘の余韻とかないのか!?」
「あるよ〜。でも甘いもの優先だから〜!」
アップルの無邪気な笑顔に、アーシスは思わず笑ってしまった。
シルティはすでによだれをたらしていた。
肩のにゃんぴんが、こっそりアーシスの耳にぴとっと触れ、静かに「にゃふ」と鳴いた気がした。
(つづく)
にゃんぴん「にゃふん、⭐︎の評価、よろしく頼むにゃん」
ゴロゴロゴロゴロ…




