【23】クラス対抗戦② 〜それぞれの想い〜
冒険者育成学校。
男子寮の共有スペースには、夜風が流れ込んでいた。
広間の中央、光魔法で灯されたランプの下に、1年B組の面々が集まっている。
「正義の味方とは──弱きを助け、強きを挫き、常に公明正大であるべきだ」
金髪の少年は静かに、けれど熱を帯びた声で語った。
ダルウィン=ムーンウォーカー。
冒険者を“正義の象徴”と定義し、すべての行動に信念を持っている男。
「……明日の相手がC組なら、ちょうどいい。あのやり方、放置しておくわけにはいかない」
向かいで腕を組むのは、B組の戦士型生徒の一人、ガラル。
「反則すれすれの魔法だろ?……まさに“正義の出番”ってやつだな」
「……ああ。僕たちが、正しい力を見せるとしよう」
その横、窓辺の影に座るフード姿の少女が口を開いた。
「やり方が“正しくない”ことと、“結果を出している”ことは、別問題です」
ナーベ=ナーベラス。
フードの奥に静かな瞳を宿すヒーラー。足元には、ひとつの黒壺が鎮座していた。
「勝ちたいのでしょう、ダルウィン。なら、全力を出してください。“自分の正義”に、迷わないで」
「……もちろんだ。勝つさ、正々堂々とな」
ナーベはふっと笑った。
「正々堂々は、言葉じゃありません。行動で示してくださいね」
月明かりが、彼女のフードの内側でほのかに煌めいた。
◇ ◇ ◇
魔導演習棟の裏手、使われていない資料室。
そこに灯る赤いランタンの光の下、少女が一人で椅子に座っていた。
「ふふふ……これで、完璧」
プティット=アラメラージ。
紫の髪を揺らしながら、魔術陣を書き込む手元に、ためらいは一切ない。
彼女の足元には“感応式幻影陣”と呼ばれる、特殊な魔法トラップが複数展開されていた。
「勝てば正義。負ければ恥。なら、勝てば恥も正義も関係ない。そうでしょ?」
その声に答えたのは、後ろの壁に凭れた緑髪の少年。
「……そりゃそうだけどよ」
パット=クレマシー。
気だるそうな声とは裏腹に、瞳は鋭くプティットの手元を見ていた。
「……なぁ、プティ。本当にこれでいいのか?」
「何が?」
「お前が使ってるの、それ“魔法学校じゃアウト”だったやつだろ?」
「……ふん、あいつらの“常識”なんて、勝てるならどうでもいいのよ。……私がこの世界で通用するって、証明するの」
その表情はどこか張り詰めていて、寂しげだった。
パットは口を閉じたまま、黙ってそばに立つ。
「……明日は、絶対に勝つわ。勝って、ギルドの推薦を取る。バカにしてきた連中を見返して、私を落とした魔法学校に叩きつけてやるのよ。“ほら、あなたたちが見捨てた才能よ”って、ね」
「……ああ。お前がやるって言うなら、俺は全部支える。お前が笑ってるなら、それでいい」
「……ふふ。じゃあ、パット。明日、後ろはお願いね」
「了解、隊長様」
握手もせず、ただ目と目で交わされる契約。その背後、誰にも知られずに幾重にも折り重なった魔法陣が、微かに光を放っていた。
◇ ◇ ◇
A組、B組、C組、それぞれの想いが揺れる夜が静かに過ぎていく。
冒険者育成学校、上半期のメインイベント、クラス対抗戦の幕がいよいよ開ける!
(つづく)




