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【21】ヴァード隊 マァリー登場


 昼下がりの街路は活気に満ちていた。


 アーシスとアップルは、学校の帰りに買い出しに出ていた。昼食用のパン、保存食、にゃんぴん用の好物(干し魚)などを袋に詰めて歩いていると、向こうから肩を貸し合って歩く若い冒険者たちが現れた。


「くそ……せっかくのドロップアイテムが全部取られちまった…」

「うぅ…あいつら許さねえ…」


 傷を負い、ぼろぼろの格好をした彼らは、誰にも構わず通り過ぎていく。


「なんだ、あいつら?」

 アーシスが眉をひそめる。


「もしかして、盗賊にやられたのかも……」

 と、アップルが不安げに言った。


「最近、駆け出し冒険者を狙った盗賊が増えてるみたいだから」

「ふーん……」


 その時だった。

 後方からカタカタと木車の音が近づいてきた。ゆっくりと止まった荷馬車の扉が開く。


 ゴン。


 重厚な革靴の音と共に、一人の女が地面に降り立った。

純白のマントに、帽子。左目には装飾的な銀の眼帯。眉間に深く皺を刻み、威圧感たっぷりの視線を真正面からアーシスに向けてきた。


(なんだ……この圧……)

 無言のまま、数秒の沈黙。

「……」


 そして、女は叫んだ。


「断る!!」


「……え!?」

 思わず口を開いたのはアーシスだった。


「いや、え? 俺、まだ何も言ってないけど!?」


 その後ろから、柔らかい足音が追いつく。

「はいはい、ごめんね。この人ちょっとおかしいから」


 そう言って現れたのは、金髪のショートカットに眼鏡をかけた青年だった。副官然とした制服の着こなし。右手には分厚い報告書の束。


「リット、てめぇ……」

「はいはい、知ってます知ってます——ぐはっ!!」


 ドン、と勢いよく女の拳がリットの頭に落ちる。


「あの……」

 おずおずとアップルが声をかけた。


「あぁ……僕らは、ヴァード隊。最近このあたりで盗賊が出るって噂でね、巡回に来たんだ」


「ヴァード隊?」

 アーシスが首をかしげる。


「王国軍直属の警備組織だよ」

 とアップルが説明する。


「ギルドとは別に、街道や辺境の治安維持をしてるの」


「君たち、盗賊について何か知ってるかい?」

 リットが優しく尋ねる。


「ああ、さっき向こうにいた冒険者がボヤいてたぜ。なんか盗賊にやられたっぽい」

「そうか、ありがとう。僕はリット。南部第五分隊の副隊長。で、こっちは隊長の——」

「マァリーだ!!」

 いきなり叫ぶように名乗るマァリー。


「しばらく滞在するから、何かあったら教えてくれよ」

「あいよ」


 アーシスが去ろうとすると、マァリーが道を塞いだ。


「……あの、通りたいんですけど?」

「………」

「……?」


「断る!!」

「またかよ!?」



   ◇ ◇ ◇


 翌日。放課後の校庭。


 アーシスは昨日の出来事を、シルティとマルミィに語っていた。


「……でさ、最後にまた断られて終わったんだよ」

「へぇ、変な人もいるもん、ですね」

 とマルミィ。

「私も会ってみたいな」

 とシルティが笑う。



 その日の夕暮れ、街に出ていた4人はギルドの前で騒がしい若者たちとすれ違う。

 その背後、建物の影でじっと動かぬ視線が彼らを見ていた。


「……シルティ」

「ああ、気づいてる」


 アーシスとシルティは目配せし、仲間たちと共に尾行を開始する。

 ギルドを出て街を離れる冒険者パーティ。その後をつけていたのは、黒いフードを被った男たちだった。


「くくく、またガキどもが街を出やがった。準備はいいか?」

「おう。罠も仕掛けたし、あとは岩陰で酒でも飲んで待つだけだな」


「その酒、俺にも分けてくれねぇか?」

「おう、いいぜ。あ? ……ガキじゃねぇか」


 アーシスたちが現れる。


「なんだ、ガキか。帰っておむつでも変えてろ」

 と、舐めきった態度を見せる盗賊たち。

 それもそのはず、岩陰から次々に仲間が現れた。ーその数は10人。アーシスたちは囲まれてしまう。


 ──戦いが始まる。


 アーシス達の実力は大したものだ。——が、数の優位は否めない。

 盗賊達にとって対人戦闘は手慣れたもの。アーシスとシルティは攻め立てられるナイフを防ぐのがやっとの状況だ。


「あ…」

 マルミィが蔦に足を取られて転倒してしまった。


「マルミィ!」

「いただきー!」


 マルミィに刃が迫った、その時——


「がっ……!?」


 盗賊のナイフが弾かれた。


 横合いから飛来したのは、巨大な槍。その柄の先に立っていたのは——マァリー。


「ナイスタイミング、助太刀してくれ!!」

 アーシスが叫ぶともの凄い速さでマァリーが叫び返す。


「断る!!」

「なんで!? この状況で!?!?」


 マァリーは傷つくのも恐れずに強引に盗賊達に突進しアーシス達の前までたどり着いた。


「……助太刀ではない。

 “助け”、ではないぞ」


 マァリーは前に出ると、盾のように構える。


「子供を守るのは大人の義務だ。お前らは動くな。あとは——

 全部私がやる」


「リット!」

「あいあいさ〜」


 大きく飛び上がったリットは空を舞いマァリーの側に着地した」。


「子供達は任せたぞ」

「はいはいさ〜」


「はいは一回!!」

 ドン! ゲンコツを食らうリット。


 そして、マァリーの怒りのオーラと共に——重槍が咆哮を上げた。

盗賊達は次々に薙ぎ倒されていく。


「ひぃ〜〜! 助けてくれ〜〜!!」

「断る!!」



   ◇ ◇ ◇


 数分後、縄に縛られ転がる盗賊たち。

 ヴァード隊の隊員たちが続々と現れる。


「マァリーさん……助かりました。ありがとう」


 アーシスの言葉に、マァリーはふっと表情を変えた——かに見えた。

しかし次の瞬間には眉間に皺を寄せ、マァリーは叫ぶ。


「断る!!」

「なんでぇぇええ!?」


——それが、マァリーとの新たな出会いだった。


(つづく)



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