【19】魔女の指輪と壊れゆくプライド
冒険者育成学校、静かな放課後の図書室。その片隅、誰も使わない古書の棚に、一冊の黒い本がひっそりと眠っていた。
「……見つけたぞ……」
低く唸るような声とともに、その本を手に取ったのはグリーピーだった。領主の息子である彼は、何かに取り憑かれたような表情でページをめくる。
そして本の奥に隠されていた、小さな木箱を取り出した。
中にあったのは、紫黒く鈍い光を放つ古い指輪。魔女の呪物とされるそれは、悪しき魔力の残滓をまとっていた。
「これさえあれば……アーシス、お前なんかに……!」
グリーピーは躊躇なくそれを指に通す。
その瞬間、彼の瞳が妖しく光り、空気が歪む。
◇ ◇ ◇
数日後、学校では不可解な事件が続いていた。
「また魔導具が壊れてる……」
「剣の訓練場の壁が、夜中に勝手に崩れたって……」
「生徒が一人、意識を失って倒れてたらしいよ……」
そんな噂が流れる中、アーシスたちは一連の事件の裏に、妙な魔力の痕跡を感じ取っていた。
「この魔力……記録にある“魔女の指輪”に似てる。き、危険、です」
マルミィが緊張した面持ちで杖を握る。
「つまり、誰かがその指輪を手に入れて、使ってるってこと?」
アップルの声に、アーシスは頷いた。
「まさか……」
──その時
彼らの前に現れたのは、かつての宿敵──グリーピーだった。
「久しぶりだな、アーシス。いや、“仮想ダンジョンのヒーロー様”よ」
その姿は以前と違っていた。指輪から漏れる魔力が彼の身体を蝕み、表情は狂気じみている。
「どうしたんだグリーピー!そんな力、手に入れても……!」
「黙れ!全部お前のせいだ!俺の名誉も、誇りも、全部お前に奪われた!!」
暴走する魔力が周囲の空間を引き裂き、グラウンドはまるで戦場のようになった。
アーシスは仲間とともに応戦するが、指輪の力を得たグリーピーは圧倒的だった。
「こんな力で……!」
「アーシス、もう限界だよっ!!」
しかし、アーシスは叫ぶ。
「違う!あいつはこんなやつじゃなかった!あの指輪が、あいつを……!」
マルミィの魔法、アップルの回復、シルティの力を借りて、アーシスは接近戦に持ち込む。そして――
「こんなもんに負けるなああああ!!」
剣で指輪を打ち砕いた。
ピシィッ、と鈍い音を立てて、指輪が砕けると同時に、グリーピーはその場に崩れ落ちた。
◇ ◇ ◇
翌朝、校庭の真ん中に一人立たされるグリーピーの姿があった。
彼は──パンツ一丁。
「ぐぬぬぬぬ……なんで、こんな……」
「反省しろ、グリーピー。悪い魔法に手を出すと、こうなるって皆に見せる良い機会だ」
アーシスがニッと笑う。
「へーんたい、へーんたい♪」
アップルが無邪気に歌う。
「お腹減った……パンツ見てたら余計に……」
シルティが謎の感想を漏らす。
マルミィは、吹き出すのを堪えながら、グリーピーにそっと毛布をかけた。
「……ありがとう……」
かすれた声でグリーピーは言った。
その時、アーシスは確かに見た。
グリーピーの顔に──ほんの少し、照れくさそうな「素の」笑みが浮かんでいたことを。
(つづく)
ガンドール「わしが、冒険者育成学校校長、ガンドールである!!」
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