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【1】冒険者育成学校入学

 

【第一章】冒険者育成学校編


 二週間におよぶ徒歩の旅を終え、ついにアーシスは——

 冒険者ギルドのある街、ウィンドホルムの門前に立っていた。


「……来た、ぞ」


 手には、くしゃくしゃになった封筒一枚。

 けれど、その足は硬直していた。


「……しまった。誰に渡せばいいか、聞きそびれた」


 呆然と空を仰ぐ。

「肝心なこと聞かずに出てくるなんて……。アホウだにゃ、アーシスは」

 肩に乗ったにゃんぴんが、呆れた声を漏らす。


「うるせぇ!お前だって一緒に聞いてたくせに!」


 口笛を吹いてとぼけるモフモフを頭に乗せたまま、アーシスは気を取り直した。


「と、とにかく……ギルドだ!まずは冒険者にならなきゃ始まんねぇ!」

 握り拳を作り、足を踏み出す。



   ◇ ◇ ◇


 はじめての冒険者ギルド。


 扉を開けると、そこには喧噪と活気が満ちていた。

剣士。魔術師。槍使い。弓使い。

 胡散臭い連中から屈強な戦士まで、ありとあらゆるタイプの冒険者が集っている。


「おお……ここが、ギルド……!」

 胸が高鳴る。

 だが、緊張のあまり——

右手と右足を同時に出して歩くという奇行を演じてしまい、周囲の冒険者たちからくすくすと笑いが漏れた。


(……こいつ、いきなり目立ちすぎだにゃ)

 にゃんぴんも顔を覆っている。


 それでも、アーシスは勇気を振り絞り、カウンターに向かって突撃した。


「すみません!冒険者になりたいんですけど!!」

 勢いよく叫んだ俺に、カウンターの向こうの女性スタッフは目を丸くした。


 彼女は眼鏡をかけた二十代前半の女性だった。 その柔らかい笑顔は、疲れた冒険者たちを癒す、まるでオアシスのようだった。


「あなた、初めてですか?」

「はいっ!」

「……ええと、冒険者試験はお受けになりましたか?」

「試験???」


 目を白黒させる俺に、彼女は苦笑しながら説明した。

「ええ。魔王討伐後、冒険者志望者が爆発的に増えてしまったため、数年前から《試験制度》が導入されたんです。

 冒険者になるには、試験に合格し、資格を得る必要があるんですよ」

「つまり……今すぐ冒険者にはなれないと?」

「はい、残念ながら」


(ガビーン)


 アーシスはその場に崩れ落ちそうになった。


「そ、そうだ、手紙!!」


 にゃんぴんが天を仰ぐ。

(完全にパニックにゃ……)


 慌てて取り出した封筒をスタッフに差し出す。

 女性は封を切り、中を読むと、眉を下げた。


「この手紙は……ギルド宛てではないですね。

この通りを北へ行った先に、大きな建物があります。きっと、そちらに提出するよう指示されているのでしょう」


「ありがとうございます!」


 深々と頭を下げると、アーシスは弾かれたように駆け出した。顔を真っ赤にして、北へ北へと全力でダッシュした。

 ──その時の速度は、今まで生きてきた中で最速だったという──



   ◇ ◇ ◇



 たどり着いたのは、城塞のような大きな建物だった。


冒険者育成学校——


「育成学校……?」

 場違いな響きに眉をひそめながら、警備にいた男に手紙を見せると、中に案内された。


 豪奢な絨毯。

 柔らかなソファー。

 見たこともない装飾品。

 俺は場違い感を全身に漂わせながら、ちょこんと腰掛けた。


 そして——


ギィィィ……と、重い扉が開いた。

 入ってきたのは老人。背は大きくないが立派な風貌、ハゲ散らかした頭は輝いていた。


(あっ!てっぺんに1本髪の毛が…!)


「君がアーシス=フュールーズ君か」

「あ、はい」

 無意識に背筋が伸びる。


「私はこの学校の校長だ。君のおじいさんとは旧知の仲でね。手紙は読ませてもらったよ」

 老人はにこりと笑ったが、目は笑っていなかった。


「手紙には、こう書いてあった。 ——"この子を、冒険者育成学校に入れてほしい"、とな」


「えっ、それって……すぐには冒険者になれないってことですか!?」

「うん、まあ……そういうことだねぇ」


(あのジジィ……!!)

 アーシスは心の中で叫んだ。


「俺は今すぐ冒険者になりたいんです! 剣術だって、生まれた時から毎日鍛えてきました!」


 力強く言ったその瞬間、校長の目がぎらりと光った。


「……君」


 ぞわりと、肌が総毛立つ。

「は、はい……!」


「——冒険者試験には、筆記試験もあるのは知っているかい?」

「えっ…!!」


 あえなく、アーシスの入学は決定した。



(つづく)


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