表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/186

【174】ネーオダンジョン《嫉妬の洞》編⑬ 〜幻影の守護者〜


 ──ネーオダンジョン《嫉妬の洞》最下層。


 空気は重く、紫の瘴気がじわじわと肌にまとわりつく。


 ドクン、ドクン──。

 奥へ進むごとに、心臓の鼓動がやけに大きく響く。


 進むたびに圧が増していくその気配に、誰もが息を呑んだ。


「……止まれ!」

 クラウディスの鋭い声が響き、全員の足が止まる。


「っ……!」

 緊張が走る。


 彼は目を細め、闇の奥を見据えながら呟いた。

「……精神干渉が強いな……このまま進むと、守護者と戦う前にダンジョンに取り込まれる、か……」


 それまで余裕を崩さなかったクラウディスの声には、わずかな焦りが混じっていた。

 Sランクの彼でさえ、この瘴気を危険と感じている。


 その時──

「任せるにゃ!」


 アーシスのポーチから、にゃんぴんが勢いよく飛び出した。

 ふわりと宙を舞い、くるりと一回転。

 その額に、淡く光る青白い紋章が浮かび上がる。


「……!!」

 クラウディスの瞳が揺れる。

(……あの紋章。……エルフの古代精霊術……か)


 次の瞬間、にゃんぴんの体全体が発光し始めた。

 アーシスが慌てて手を伸ばす。

「お、おい、にゃんぴん!なにする気だ!?」


「にゃんぴにゃーーー!!!」

 叫びとともに、青白い閃光が爆ぜた。

 光は一瞬でエリア全体を包み込み、空気が揺らめく。



 ──静寂。


「……な、なにが起きたの?」

 目を瞬かせながらアップルが呟く。


「結界だ……ダンジョンの幻影が干渉しないようにな……」

 クラウディスが低く答える。


「す、すごい……にゃんぴんちゃん、天才です!」

 マルミィが拍手を送ると、にゃんぴんは胸を張り、ひげをくいっと上げた。


「えへん、にゃ」

 その愛らしい姿に一瞬空気が和らぐ。

 だが、クラウディスはふと目を伏せ、静かに息を吐いた。


(……さすが、だな)

 わずかに口元を緩めると、表情を引き締め直し、低く告げる。


「いいか、この先に守護者──このダンジョンのボスがいる。ネーオダンジョンのボスとなると、俺ひとりでも倒せるかわからないレベルだ。……お前たちを守る余裕はなくなる」


 重い言葉が響き、空気がピリつく。



「……命をかけろよ」


 クラウディスの言葉に、アーシスたちはゴクリと唾を呑んだ。



   ◇ ◇ ◇


 最下層の回廊を進むと、耳鳴りのような低い音が響く。

 誰も口を開かない。ただ、緊張の息づかいだけが空気を震わせていた。


 やがて、古びた紋様が刻まれた巨大な石扉が立ちはだかる。

 蔦に覆われたその扉から、うっすらと緑の光が漏れていた。


「……ここだな」

 足を止め、クラウディスが振り返る。

 そして、ゆっくりとアーシスたち一人一人の顔を見回すと、静かに象獣レディオから飛び降りた。


 クラウディスはゆっくりと扉に手をかける。

 背後では、アーシスたちが無言で構えを取った。


「……行くぞ」


 ギィィィィ──。

 鈍い音とともに、石の扉が開く。

 その先に広がっていたのは、異様な光景だった。

 空間一面に並ぶ無数の鏡。

 天井も壁も床も、すべてが鏡面となって光を反射している。


「……気をつけろ。これがこのダンジョンの中枢だ」

 クラウディスの声が低く響く。


 アーシスは辺りを見回し、奥へと進んでいく。

 その時、視線の先に──シルティの姿が見えた。

 鏡の奥、すでにかなり先まで進んでいる。


「シルティ!先行しすぎだ、危険だぞ!」

 アーシスは思わず声を張る。


 ──だが、次の瞬間。


「……え?」

 背後から、シルティの声。


 振り返ると、アップルとマルミィの前に立つシルティがこちらを見ていた。

「……!?」


 慌てて再び正面を向く。

 鏡の奥にも、確かにシルティが立っている。


「……シ、シルティが、二人???」


 《嫉妬の洞》──幻影の守護者との戦いが、始まろうとしていた。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ