【173】ネーオダンジョン《嫉妬の洞》編⑫ 〜揺らぐ心、燃える炎〜
目の焦点は合わず、顔面蒼白。
フラフラと身体が揺れる。
泣き叫ぶ。
オドオドとあちこちを見回す。
──《エピック・リンク》の四人は、精神崩壊の淵へと追い込まれていた。
……チュー、ゴクン。
ミックスジュースを飲み干す音が、妙に響く。
クラウディスはレディオの首に下げたバッグをごそごそと探り、ひとつのスクロールを取り出した。
ストローをゆらゆら揺らしながら狙いを定め──ヒョイッ、と軽く放る。
宙を舞うスクロールが四人の頭上に来た瞬間、クラウディスのストローから放たれた闘気弾がそれを貫いた。
──次の瞬間、スクロールから爆ぜる炎。
燃え盛る火が一点に収束し、小さな太陽のような炎の球となって空間を照らす。そして──
「集中!!」
覇気を帯びた声が轟く。
空気が震え、アーシスたちの身体が反射的に震える。
「炎を見ろ、そして己の信じる心と向き合え」
先ほどの咆哮とは違う、落ち着いた低音。
その響きに導かれるように、四人はふっと顔を上げる。
──瞳の中に、炎が宿る。
やがて幻影は霧散し、四人は正気を取り戻す。
肩で息をしながらも、互いに視線を交わした。
「…………幻影に、踊らされていたのか」
汗を滴らせるアーシスの言葉に、クラウディスが短く答える。
「戻ったなら、後は自分たちで対処しろよ」
「……ッ!」
その一言で、四人は一斉に行動に移った。
アーシスとシルティが剣を振り下ろし、マルミィとアップルが魔法を放つ。
硬質な音を立て、鉱石の鏡が次々と砕け散る。
──だが、彼らの顔はまだ青ざめていた。
頭では「幻」とわかっていても、心に刻まれた傷は消えない。
「どうやら……これがこのネーオダンジョンの性質、《嫉妬》か」
クラウディスは淡々と告げたが、四人は言葉を失ったまま俯いていた。
(……やれやれ)
ふぅ、と息を吐いたクラウディスは、ストローを軽く鳴らし──タタタタッと軽い闘気弾を四人の頭に当てた。
「……って」
痛みに顔を上げる四人。
「いいかお前ら、精神攻撃なんてのは、信念がしっかりしてりゃ効かないんだよ。……小手先の剣や魔法ばかりじゃなく、精神の修行も行うんだな」
クラウディスは説教するように言い放つ。
しゅん、とする四人の横をレディオに乗ったクラウディスが通り過ぎていく。
ダンジョンの奥を睨みながら、クラウディスは静かに呟いた。
「……切り替えろ、お前らなら出来るはずだ」
アーシスはぐっと拳を握る。
仲間たちも頷き、再び顔を上げた。
レディオの後を追い、歩き出す四人。
その時、前を行く背中から低い声が落ちる。
「油断するなよ……ボスは近い」
瘴気の濃度が増す。 彼らは互いに視線を交わし、深く息を吸った。
──《嫉妬の洞》、核心へ。
(つづく)




