表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/186

【163】ネーオダンジョン《嫉妬の洞》編② 〜やるのかい?やらないのかい?〜


「……またか」


 ウィンドホルムのギルド支部──応接室。

 魔導タバコを咥えたパブロフが、眉間にしわを寄せながら呟いた。


 ギルドマスターのエリオットに集められたのは、職員のマーメル、パブロフ、そしてアーシスたち《エピック・リンク》。

 部屋の空気は重く、沈黙の圧が全員の肩にのしかかっていた。


「……ったく、ギルドは何を考えてんだ。"ネーオダンジョン"に学生を行かせるなんて」


 パブロフの苛立ちにエリオットは気圧され、額の汗を拭う。

「そ……それは、私もそう思うんだが……」


 アーシスたちは動揺を隠せない。胸に蘇るのは、あの忌まわしいネーオダンジョンの記憶だった。


(たしかに……こいつらの実力は、すでに一流冒険者と遜色ない。……だが今回は突発ではなく、他の戦力を回せば済むはず……。なぜギルドは、あえてこいつらに固執する?)

 パブロフは煙をふーっと吐き出し、天井を仰ぐ。


「今回は、Sランク冒険者が同行することになっている。君たちにとっても良い経験になるはずだ」

 ハンカチで汗を拭きながら、エリオットは無理に笑顔を浮かべる。


「えっ、それって!DDさん!?」

 アップルの瞳が一瞬で輝いた。


「いやいや、それが誰が来るかは当日までわからないんだ」「ふ〜〜ん」


 DDの名を耳にし、アーシスはかつて掛けられた言葉を思い出していた。


“弱いのは悪いことじゃない。……弱さから逃げるのが、悪いことなんだ”


 ぎゅっと拳を握り、口を開く。

「……俺は、逃げない」


「ん?」

 小声に反応したシルティが視線を向ける。


「いや……。受けよう。俺たちもあの頃とは違う。腕試しだ!」


「だよねっ!」

 アップルが満面の笑みを浮かべる。

「が、頑張ります……!」

 マルミィは杖を強く抱きしめる。

「ふっ。断る理由はない」

 シルティが静かに頷いた。


「……ったく、腕試しって。遊びじゃないんだぞ」

 パブロフは呆れ声を漏らすが、それ以上は止めなかった。


「頑張ってくださいね〜。出発は一週間後です」

 マーメルの明るい声が響き、エリオットはようやく安堵の息を吐いた。



   ◇ ◇ ◇


 ガランゴロン──。

 ギルドを出る扉に付いたベルが、軽快な音を立てる。


 さっきまでの重苦しさは嘘のように、アーシスたちの顔には晴れやかな笑みが広がっていた。


「今度こそ、俺たちの力でやり遂げる」

「うん!」

「……絶対に」

 前だけを見つめ、やる気に満ちた会話が弾む。


 その“前向きすぎる思考”こそが、彼ら《エピック・リンク》の成長の源だった。



 ──その姿を、カフェのテラスから見つめる影があった。


 眼鏡をかけたノースリーブの女性が、トロピカルジュースを傾ける。


 口元に小さく笑みを浮かべながら、視線の先を見据えていた。

「……しばしの休息、とはいかないよね」


 通りを行くアーシスたち。その上をふよふよ飛ぶにゃんぴんが、チラッと女性の方を見た。

(……勘がいいこねこちゃんね…)


「どうしたにゃんぴん?」

「……なんでもないにゃ〜」


 す〜〜っとすり抜けてパーティの先頭へ飛んでいくにゃんぴんを目で追いながら、アーシスは何かを決意した表情を浮かべた。


 ──新たな試練の幕が、静かに上がろうとしていた。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ