表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/189

【160】帰還、新生分校生活のはじまり


 カーテンの隙間から差し込む夕焼けが、薄暗い小部屋を朱に染めていた。


 その光に浮かび上がる、二つの影。


「へぇ──あの猫がねぇ……。まさか、こんなところに魔王様復活の鍵が隠れていたなんて……」

 窓際に立つ人物が、愉快そうに口角を吊り上げた。


 扉際に控える影が、無言で次の言葉を待つ。


「あなたは引き続き情報収集を続けてください。……私は教上層部に報告をあげておくわ」


 その指示を受けた影は、静かに頷き、音も立てずに部屋を後にした。


 残された窓際の人物は、ふっと笑いをこぼし、夕焼けを遮るようにカーテンを閉じる。

 部屋は闇に沈み、その笑みだけが浮かび上がった。



   ◇ ◇ ◇


「戻ってきたね〜〜!!」

 馬車から飛び降りたアップルが、両手を広げて大声をあげる。


 夕暮れの空を背景に、複数の大型馬車がウィンドホルムの街を抜け、冒険者育成学校の門前に辿り着いていた。


「ん〜、なんだか懐かしいなぁ」

「……だな」

 アーシス、シルティ、そして生徒たちが次々と馬車から降り立ち、それぞれの表情で学び舎を見つめる。


 そこに──


「よく帰ってきたなッ!!」

 門の向こうから腹の底に響くような大声が轟いた。

 ──校長だ。


「今日はもう遅い。旅疲れもあるだろ、寮に帰ってゆっくり休め!新しくなった学校は、明日の楽しみだな!」


 豪快な笑みを浮かべる校長の声に、生徒たちは安堵と高揚の入り混じった笑顔を返し、散り散りに寮へと帰っていった。



   ◇ ◇ ◇


 ──翌朝。


「うおおおぉぉぉーー!!」

 早朝の校庭に、アーシスの驚嘆の叫びが響き渡った。


 そこには、新しく設置された巨大な“魔導アスレチックス”がそびえ立っていたのだ。


「こ、これは……!」

 遅れて姿を見せたシルティも、思わず目を丸くする。


「おぅシルティ、見ろよこれ!」

「ああ、本校にあったトレーニング機器だな」


「……ふふ、しかも、本校のより最新型らしいぞ」

 校舎の窓から煙草をくゆらせながら、パブロフが声を投げた。


「すげぇ!!」


 新しくなった校舎、最新の機器、今までなかった売店や休憩所まで新設され、生まれ変わった分校に、生徒たちは子供のようにはしゃぎ回る。


「……まぁ、その分、これから授業と称したお仕事で稼いでもらうんだけどな……」

 パブロフがぼそりと呟いた言葉は、生徒たちの歓声にかき消された。


 やがてアップルとマルミィも加わり、エピック・リンクの四人と一匹は中庭のベンチに腰掛ける。


「また今日から授業の再開だな」

「ああ……」

「……もっと、強くならなきゃ、ですね」

「そうだね。世界は広いもんね」


「……よっしゃ!せっかく学校も新しくなったんだ!俺たちも、今まで以上に鍛錬してこうぜ!」

 アーシスは立ち上がり、拳を突き上げる。

 仲間たちも、その決意を共有するように頷いた。


「《そろそろ朝礼はじめるぞー、お前ら、教室に入れよー》」


 魔導スピーカーから響くパブロフの声。

 アーシスたちは顔を見合わせ、小さく笑みを交わすと、足並みを揃えて歩き出した。


 本校での借り暮らし生活が終わり、また新しい季節が始まろうとしていた。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ