【158】本校借り暮らし編㉒ 〜鉄格子の中の英雄たち〜
ムスッ。
鉄格子の向こうでアーシスは憤慨した声を上げる。
「て言うかて言うかて言うかよ、なんで俺たちが牢屋に閉じ込められてんの!?俺たちなんか悪いことした?」
「……ゼロズに無断侵入したからだろ。何度も言わせるな」
壁際に立つトルーパーが、低く呟く。
「いやいやいやそんならよ、なんでタイガーはいないの?あいつなんて侵入どころか、壁ぶち破ってんだぞ!?」
「まぁ……あいつは王子だからな」
「納得行かねぇぇぇ!!」
アーシスの叫びが地下通路に虚しく反響する。
ぐ〜〜……。
「お腹すいた……」
三角座りのシルティが、虚ろな瞳で呟いた。
「いや……ご飯はさっきちゃんともらっただろ……」
アーシスのツッコミはシルティには届かない。
「シルティさん、よかったらこれどうぞ……」
ナーベはポケットから取り出したミニりんごを差し出す。
「え、いいの!?」
目を輝かせるシルティに、ナーベは無言で頷く。
「ナーベちゃん、神、いや、ネ申!!」
シルティはりんごを手に取ると、シャリシャリシャリ……と幸せそうにかじりついた。
「はぁ……」
鉄格子を握ったまま、アーシスは顔を落とした。
そこに、
「よっ、元気?……なわけないか」
兵士に付き添われ、レイキュンが現れた。
「レイキュン!」
「へへ、面会だよ〜」
「聞いてくれよレイキュン〜、俺たち、王都を守るために戦ったのによ〜、こんなとこに入れられて、何度も何度も同じこと聴き取りされてよ〜、冗談じゃねぇぜ〜」
アーシスは待ってましたとばかりに愚痴をこぼす。
「だよね〜……ほんとは感謝してほしいとこだけど、騎士団は冒険者を見下してるからね〜。……まぁこうやって面会はさせてくれてるし、事情聴取が終わったら出れるはずだよ」
レイキュンは優しくアーシスを諭す。
「……何かの罪に問われるのか?」
りんごの種を頬に付けたシルティが尋ねる。
「いやぁ、それはないと思うよ。タイガーも動いてくれてるし。……ただ、あいつ政りごとはからっきしだから、少し時間かかってるのかも……はは」
「で、"その後"、ゼロズはどうなったんだ?」
黙っていたトルーパーが口を開いた。
「……うん、ゼロズの入口は完全封鎖されてるよ。常に騎士団が見張りに立ってる。ダンジョンの中では、魔導星団の調査がまだ続いてるみたい……」
「そうか……」
牢獄に沈黙が流れる。
「時間だ」
「あ、はい。じゃあみんな、またねっ」
兵士に促され、レイキュンは手を振り、立ち去った。
◇ ◇ ◇
──数日後、王城門前。
「ん〜〜〜っ、やっぱ外の空気はうまいな〜〜!」
大きく伸びをしながらアーシスは叫んだ。
ナーベは思わずクスッと微笑む。
アーシスたち四人はようやく釈放されたのだった。
「よっ、お疲れさんっ」
「先生!」
そこにはパブロフ、アップル、マルミィ、ダルウィン、ダンバイロン、レイキュン、タイガー、そしてディスティニーの姿があった。
「みんな、来てくれたんだな!」
アーシスたちの笑顔が弾ける。
「しかし、騎士団は相変わらず冒険者の扱いが悪いな……」
ダルウィンはムッと唇を尖らせる。
「大丈夫、前科がついてもアーシスはエピック・リンクのメンバーだよ!」
アップルが元気よく胸を叩く。
「無罪放免だっつの!」
アーシスがチョップを落とし、アップルが「いてっ」と悲鳴を上げる。
ドッと笑いが起きる。
久しぶりの仲間たちとの再会、意図せずともアーシスたちは仲間の大切さを再認識していた。
「しかし……、結局あの封印の再生、なんだったんだろうな」
アーシスは空を見上げながら呟いた。
「……魔導星団のやつらも、解析に手間取ってるらしい。なんせ、あの封印は、最古の魔女"ダリア=ウッズ"の手によるものだという伝承がある……今の時代、あの封印を形成できる魔導士なんて、存在しないからな」
タバコをふかしながら、パブロフは遠くを見つめる。
「……もしかしたら、封印の再生は"最初から"仕込まれていたのかもな」
「まさか、そんなこと……」
ナーベが思わず口にする。
「いや、それほどの魔女だよ。ダリア=ウッズは。今もどこかで生きている……なんて噂話もあるけどな」
パブロフは後ろの生徒たちに目を向けながら呟いた。
「さて──」
パブロフは一転して笑い、声を張った。
「お前らの満期釈放のお祝い、そして、分校工事完了祝い、借り暮らし生活終了のお別れ会を合わせて、今夜はパーティだぞ!!」
「おおおーっ!」
仲間たちの歓声が王都の空へ響いた。
こうして──長かった借り暮らしの日々に幕が下ろされる。
(つづく)




